置きっぱなしのバットとグローブ
小学生だった頃の友達の話。
よく一緒に野球をしていた友達で
N君という男の子がいました。
N君はクラス一野球が大好きで、
自分用のグローブとバットを持ってました。
当時、自分のバットやグローブを
持っている子はあまりおらず、
学校の備品を借りて遊んでいました。
だからN君にとって、
グローブとバットは
宝ものみたいなものだったと思います。
ところが、ある日のことです。
いつものようにみんなで野球をして、
だんだん空が薄暗くなってきた頃、
「そろそろ帰ろうぜ」
という誰かの言葉で、
帰ろうということになりました。
みんな家まで数キロは
離れた場所に住んでいるので、
それぞれ自転車です。
僕も自転車を取りに行き、
特に仲の良かった友達と一緒に
帰ろうとしました。
そして、学校の校門に向かって
走りだした時です。
グラウンドの隅に、
N君がいつも大事にしていた
グローブとバットが
置きっぱなしになっているのに
気付きました。
僕はN君に届けてあげようと思い、
バットとグローブを拾って
N君を探しました。
校門を出ると、田んぼのあぜ道を
N君が走っているのが見えました。
僕は、おもいっきり腹に力を込めて、
「お~いNく~ん、
グローブとバット~~!!」
と叫びました。
するとN君は、
「もういらないからあげるよ~~」
と返したのです。
あんなに大事にしていたのに、
何で僕にくれるのか理由が分からず、
少し困ってしまいましたが、
とりあえず家に持って帰りました。
その夜N君に、グローブとバットを
本当にくれるのかどうか、
電話で聞いてみることにしました。
しかし、電話に出たお母さんから、
N君の死を知らされました。
N君は自転車で、
横断歩道を渡ろうとしたところを、
左折しようとしたダンプに
巻き込まれてしまったそうです。
N君は、自分が死ぬことを
知っていたのでしょうか?
(終)