UFOと女の子(冬) 5/5

『お話ししようよ。

私が引っ張って上げようか?』

 

入口の穴から小さな手が

こちらに向かって伸びてきた。

 

掌を上に。

顔は見えない。

 

手だけだった。

 

もしその手を握ればもう戻れない。

そんな予感があった。

 

たっぷりの戸惑い。

数秒の迷い。

 

そして一瞬の躊躇。

 

そうして僕は、

 

自分の右手をそっと

彼女の手に重ねた。

 

重ねて、離した。

 

彼女の小さな手には、

 

ラムネ菓子や、

飴玉が入った袋が乗っていた。

 

五十円分。

 

それをきゅっと握って、

手がUFOの中へと戻っていく。

 

「ごめん。僕は乗れない。

友達を待たせてあるから」

 

少し僕の言葉を吟味するような

間があった。

 

『・・・ともだち?』

 

「うん」

 

『ともだちが、できたの?』

 

「うん」

 

『それは、良いともだち?』

 

「うん」

 

懐かしい。

 

昔もこうだった。

 

彼女が質問して、

僕が答える。

 

『私も、良いともだちだった?』

 

「うん。・・・もちろん」

 

何か冷たいものが頬に触れた。

雪だった。

 

夏のデパートの屋上に、

 

粒の細かい雪が

風に乗ってちらほらと、

 

舞い降りていた。

 

そろそろ魔法が

解けるのかもしれない。

 

いつの間にか、

 

手にしていたはずの縄ばしごの

感覚が消えていた。

 

周りの子供たちの声も

しなくなった。

 

もう残っているのは、

目の前の銀色のUFOだけだ。

 

僕はそれが消えてしまわない様、

目を逸らさずにじっと見つめていた。

 

不意にUFOの入り口の穴から、

 

こちらを覗きこむように

女の子が顔を出した。

 

そして、にこりと笑った。

 

僕の記憶にあるそれと

寸分違わない笑顔だった。

 

『おかし、・・・ありがとう』

 

返事をしようとした僕の目に

雪が入って、一瞬、瞬きをした。

 

閉じて、開いて。

 

それだけでもう僕の目の前に

UFOは存在していなかった。

 

雪の降る屋上には

人影も無く。

 

足元にUFOを支えていた

ボルトの跡があるだけだった。

 

僕はしばらくの間、

 

何もしないで、

ただ空を見上げていた。

 

僕は一体、

何を見たのだろう。

 

Sに言わせると、

幻覚幻聴、

 

または妄想ということに

なるのだろう。

 

そして僕は、

 

ふと自分の手の中にある

ものを見やった。

 

K「うおお。雪だ。

雪降ってんじゃん!」

 

声のした方を向くと、

 

一階のフードコートに居るはずのKとSが

屋上に上がって来ていた。

 

見ると、Sは片手に

ビニール袋を持っている。

 

「二人共・・・どうしたの?」

 

尋ねると、Sがその手に持った

ビニール袋をひょいと持ち上げる。

 

S「屋上で食った方が

美味いんじゃないかってな。

 

下で買って来たんだよ。

 

ほら、お前の分のサンドイッチだ」

 

そう言って、

 

Sは紙袋に包まれた

湯気の立つ

 

大きなサンドイッチを

僕によこしてきた。

 

僕はしばらく

サンドイッチを眺めていた。

 

せっかくさっき泣かなかったのに、

また涙が出てきそうで。

 

必死に我慢しながら、

無言で一口かじる。

 

Kの笑い声。

何だろうと思った。

 

Sも小さく笑っていた。

 

いきなりむせた。

辛かった。

 

からしだった。

 

大量のからしが、

 

サンドイッチのパンとパンとの間に

塗りたくられていたのだ。

 

咳き込んで涙が出た。

 

前言は撤回だ。

 

こんなヤツら、

全然良い友達じゃない。

 

S「俺じゃないぞ。主犯はKだ」

 

止めない時点で同罪だろう。

 

二人に対して

あまりに腹が立ったので、

 

僕は残りのからしサンドイッチを

全部一気に平らげてやったら、

 

もっと笑われた。

 

大量のからしを食べすぎると

そうなるのか、

 

口だけじゃなくて

目まで痛くなった。

 

三人で屋上のベンチに座って、

僕は口直しに渡されたお茶を飲む。

 

それすらも罠じゃないかと

怪しんだけれど、

 

幸い普通のお茶だった。

 

K「で、用事ってのは

もう済んだのかよ」

 

とKが訊いてくる。

 

僕は頷いた。

 

Kは何があったのかを

聞きたそうだったけれど、

 

今のところ僕に話すつもりはない。

 

代わりに、

 

手にしていた五十円分の菓子が

入った袋を開け、

 

中身をそれぞれ半分ずつ

KとSに手渡した。

 

K「何だコレ?」

S「何だコレ?」

 

僕の行動を測りかねた二人が

同時に尋ねてくる。

 

さっきのお返しだとばかりに、

 

僕はたっぷりと意味ありげに

笑って答えた。

 

「言わば、

それはKの大好物で、

 

なおかつ、

 

Sが到底呑み込むことの

出来ないもので・・・」

 

僕の言葉に二人は、

 

お互い訳が分からんといった風に

顔を見合わせた。

 

「さらに言えば、僕がさっき

宇宙人にあげたもの、かな」

 

Sは手にしたガムを

怪訝そうに見やり、

 

Kは包を開いた飴玉を

恐る恐る舐める。

 

僕はそれを見て、

また少し笑うのだった。

 

(終)

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2 Responses to “UFOと女の子(冬) 5/5”

  1. 素人 より:

    悲しくも切ない話や。・゜・(ノД`)・゜・。

  2. あおば より:

    珍しくオカルトじゃなかった。
    しいて言えば50円分の菓子が消えてることかな?

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