絶対に食っちゃならねえ山芋
これは、ある山芋の奇妙な話。
彼の祖父は、かつて猟師をしていた。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれたという。
「山に入ってると、色々と自給自足しなきゃならない時もある。
でもな、何が食えて何が食えないかってのは、しっかと押さえとかなきゃいけねえ。
ずいぶんと奥の山なんだけどな、そこで採れる山芋は『マナコイモ』って呼ばれてたそうだ。
掘り出すと一見普通の山芋なんだが、所々ギョロリとした目玉が付いてるんだと。
中にゃ気持ち悪いことに、まるで人の頭そっくりな形の芋もあったってことだ。
これが実に美味いんだと。
でも、絶対に食っちゃならねえ。
一度でも腹に入れちまうとな、もうその後の人生、この芋以外の物は食えなくなるというんだ。
他の何食っても、もう胃の腑が受けつけねぇって。
眼芋が生えてんのはその山だけだから、二度とそこから下りられんようになるわけで。
運悪く食っちまって、そこに住み着く羽目になった木樵(きこり)が伝えたって話だ。
でもまぁ実際、飢え死にするくらいなら食っちまうかなぁ。
死んじまうよりはなぁ」
そう言うと祖父さんは悩ましい顔をしたという。
(終)