猟猫を連れて山に入る爺ちゃんの話
これは、猟師の爺ちゃんから聞いた怪異話。
爺ちゃんは3匹の大きな秋田犬を飼っていた。
そして爺ちゃんの最も不思議なところは、『猟猫』を1匹連れていること。
猟師仲間は皆、「猫は言うことを聞かない」、「猫は猟には使えない」という理由で飼わないのに、爺ちゃんは朱色の虎毛の猫を1匹、必ず犬と一緒に連れて行った。
理由を聞くと、「最も神を感じる存在だから」だと。
ある日のこと、いつものように4匹のお供を連れて山に入った。
すると、爺ちゃんの肩に乗っていた猟猫の赤獅子が飛び降り、3匹の犬の囲いの中に入った。
そして、いくら呼んでも肩に戻らなかった。
その日は猪を1匹仕留め、帰ろうとした時、赤獅子は狂ったように唸り始めた。
3匹の犬たちも、訳がわからない状態だったと。
だが、爺ちゃんが赤獅子を抱えて歩くと、犬までもが吠えたり唸ったり走り回ったりして、とうとう手がつけられなくなってしまった。
そして犬笛を吹こうとした、その時だった。
この辺りには居ないはずの巨大な鷲のようなものの影が飛んだかと思うと、犬は3匹共ばったりと倒れた。
赤獅子は少し大きめなナラの木に登り、影に向かって手を出す。
すると、影は無くなった。
しかし赤獅子の体は血こそ出ていないものの、きれいにスパッと切れていた。
3匹の犬は気絶していた。
爺ちゃんは、赤獅子の登ったナラを見上げた。
何かが枝の間に掛けてあった。
登ってみると、それは“猿の毛皮”だった。
人が着れるようにはなっているが、小さすぎて子供しか着れないようなものだった。
猿の皮だからサイズはそうなのだが、襟のところに鷲の羽飾りが付けてあり、腰の縄も付いている。
気味悪くなった爺ちゃんは、すぐに山を降りた。
犬も猫も無事だったが獣医に診せたところ、「これはカマイタチだ」と言われた。
森の中、しかも夏なのにカマイタチが起きるはずはない。
次の日、山神にお祈りしたそうで。
あとがき
爺ちゃんの話では、後日そこに行ってみたら皮はなかったとか。
それに、爺ちゃんの友人がそこで“鷲の羽がある猿の化け物”を見て、逃げ帰ってきたとか。
そんな話を聞いた次の日に、カマイタチで片足を失っても力強く生きていた赤獅子が山に入っていき、その次の日に皮を口に加えて持って帰ってきた。
ただ、爺ちゃんが皮を焼こうとした時、また影が出てきて皮が無くなったそうで。
爺ちゃん曰く、「陰陽師でもないとアレは倒せない」とか何とか。
嘘みたいな本当の話。
(終)