飛び込みの営業での心霊体験談

 

これは、今とは別の仕事をしていた頃の話。

 

その日は、いつもいる支店とは違う支店エリアでの営業で、渡された地図を片手に歩いての飛び込み営業の仕事だった。

 

目的のエリアに着き、「さて、行くか」と歩き始めてしばらくすると、地図では黒く塗り潰されていた一軒の近くで足が止まった。

 

「･･･あれ？誰かいる？？？」

 

そこは古びた家で、カーテンがされて中は分からないはずなのに、なぜか『いる』と確信した。

あそこには誰もいないはずだが･･･

「こんにちは～！」

 

玄関前で何回か呼んでみたが、返事がない。

 

出て来ないか･･･と少し引き返したその瞬間、「何か御用ですか？」と、その家の中からお婆さんと思われる声がした。

 

慌てて戻って話を始めたが、なぜか玄関は開かないまま話は続く。

 

「玄関、開けてもらえませんか？」

 

「私じゃ開けられないんです。力が弱いもので。ところであなた、私と話していて不思議に思わないんですか？怖くないですか？」

 

「？？？。別に何も･･･。お一人で住んでいらっしゃるんですか？」

 

「いえ、住んでいるってわけじゃないです」

 

「え？通ってるとか？」

 

「そうじゃなくて･･･。前はお爺さんが一緒にいたのですけど、ずっと前に遠くに行ってしまってね。私もそこに行きたいのですけど、自分ではどうしようもなくて･･･」

 

「じゃあ、これは外から？その閉めた人に言ってきましょうか？」

 

「近くにいる○○さんなはずですけど･･･いいのですか？」

 

「だって、行きたいんですよね？」

 

「･･･はい。一人はもう･･･。じゃあ、すみませんが･･･」

 

そうしてその○○さんの家へ行ったところ、ご主人からこちらが話し出す前に開口一番にこう言われた。

 

「今あの家に行った？あそこには誰もいないはずだが、誰かいたかい？」

 

私は、さっきのお婆さんとのやり取りを話した。

 

ご主人は緊張した面持ちで聞いていた。

 

そして、「分かった。後でちゃんと開けておくから。ところであんた、幽霊とか見えるのかい？」と聞かれた。

 

私は、「いえいえ、全然。見たことないですよ」と笑いながら答えると、ご主人は「今まで一度も？ふーん。変わった力だね」と言った。

 

時間はまだお昼だったので、支店に戻ってこの出来事を報告すると、「ついにやっちまったか！」と、みんなが大騒ぎに。

 

ちなみに、私がこのお婆さんが幽霊だったと知ったのは、それから１０年近く経ってからのことだった。

 

（終）