ゴミ袋に包まれた鍋の中から
これは、奇妙な体験をした話。
近所の工場付近の交差点に、随分と前から『ゴミ袋に包まれた鍋』が捨てられている。
左右に取っ手が付いた、よくある金色のアルミ鍋。
こんなところに鍋ごと捨てるなんて、どれだけ中身がヤバイのだろう…。
いや、よく工場の人がこの辺りで休憩しているから灰皿代わりなのか?
そんなことを色々と考えていた。
あれは、雨の日の夜だった。
近所の飲み屋から酔っ払って帰ってくる道中、やはり投棄されている鍋がいつものように視界に入った。
いつもは素通りするのだが、酔っ払っていると無意識に行動力がつくのか、「中身を見てみるか」という気分に。
夜中、それも雨に打たれ、街灯の明かりを反射して妙な雰囲気を醸し出している鍋。
私はゴミ袋を開け、鍋蓋のつまみを持ち、そっとずらす。
ガッ!!
一瞬、目を疑った。
鍋の中の暗黒から、青白く枯れ枝のような手が飛び出し、鍋のふちを音を出すような勢いで掴んだのだ。
その直後、こんなに速く自分が走れたのかと思うような早さで走り帰った。
そんなことからしばらく経ったが、まだ鍋はそこにある。
蓋も完全に閉まった元の姿で。
とりあえず、夜はその道を通らないようにしているが…。
(終)