空っぽの棺桶をノックしてみたら
これは、葬儀屋で働いている時に体験した話です。
あるお通夜の為の必要な物を揃えに倉庫へ行った時のことでした。
そのフロアは昼間でも薄暗く、霊安室もあるので職員の皆が苦手でした。
その日も霊安室には故人様がいらっしゃいました。
そしてその方の湯灌がまだでしたので、倉庫には空っぽの棺桶が置かれていました。※湯灌(ゆかん)=棺に納める前に故人の体を洗い清めること
少し余談になりますが、ちょうど出勤する前にオカルト板を見ていた私は、その時は異様に神経が高ぶってテンションが異常だったことを覚えています。
何を思ったか、普段は触らない棺桶を開けて見てみることにしました。
中に何かいるかも…。
そう思ったので、まずは空っぽの棺桶をノックしてみました。
コンコン。
当然ですが返事はありません。
途端に興醒めした私は、中を見ずに倉庫を出ることにしました。
しかし、倉庫の扉が開きません。
内心ではパニックになりつつ扉のドアノブをガチャガチャと揺すりましたが、扉が開く気がしません。
その時でした。
背後から「コンコン…」と、さっきの私のノックに応えるかのように聞こえたのです。
その後のことは覚えていません。
次に気づいた時は家でした。
同僚に聞いてみたところ、その日の私に何もおかしい様子はなかったそうです。
ちなみに、私は今でもこの葬儀屋で働いています。
(終)