魅力と恐怖の格安アパート
大学時代、東京都の某市にアパートを借りて大学へ通っていた。
その間に3回ほどアパートを変えているが、それにまつわる話。
初めに住んだアパートの2年契約を終える少し前に、更新して住み続けるよりも新しいアパートで心機一転したいという理由で別のアパートを探した。
そうして見つけたアパートが、1LDKでロフト付きの4万5千円という『格安アパート』。
ロフトはハシゴが付属しているものではなく、ちゃんと階段があって屋根裏部屋という1つの部屋として独立していたのでかなり気に入った。
しかも改装直後ということで、とても綺麗だった。
数週間後、引越し作業もひと段落して、彼女と一緒に新しい部屋で酒を飲みながらまったりしていた時のこと。
玄関のドアから「コンコン」という音が聞こえた。
例えるなら、閉まっているトイレのドアを「入ってますか~?」と叩くような感じ。
物が当たった音ではなく、明らかに人の拳による音。
新聞の勧誘か何かだろうと思ってドアを開けたが、誰もいない。
時計も夜中の1時を回っていたので「おかしいなぁ」と思ったが、少し酔っ払っていたので気にしなかった。
しかし5分くらいした後、またノックの音が聞こえ、今度は強めに叩かれた。
「夜中にうるせぇな!」と思ってドアを開けたが、やっぱり誰もいない。
彼女は半泣きで、俺も少し身構えた。
次はノックされた瞬間に開けてやろうと思った俺は、ドアの前で仁王立ちして待っていた。
しばらくして、「コンコ・・・」の瞬間、勢い良くドアを開けたが、やっぱり誰もいない。
ただ、彼女には怖がらせるのはいかんと思い、「風で傘が当たってたみたい」と嘘を言っておきながら、自分は変わらず身構えていた。
その直後、なぜか俺は突然の発作でぶっ倒れたようだった。
気がついたら病院のベッドの上。
医者の診断によれば、ストレスが原因の過呼吸症候群。
ストレスなんて溜めていないのだが…。
その後2週間の間に、俺はその部屋で4回ほど同じ症状により救急車で運ばれた。
さらに2週間後の、いつものように彼女を車に乗せてアパートへ帰って来た時のこと。
駐車場はアパートの真横に1台だけ車を停められるスペースがあってそこに停めさせてもらっているが、その場所に喪服を着た4人とお坊さんがおり、駐車スペースの真ん中には花束と線香が置かれている。
正直、かなりパニックになった。
お坊さんに事情を説明してもらおうと駆け寄ったところ、喪服姿のおばさんに話しかけられた。
「ごめんね、うちの人がここで自殺しちゃったのよ」
「えっ!?今日?」
「ううん、もう1年くらい前だけどね」
口を挟むように、お坊さんが笑顔でこう言う。
「まだ成仏してくれないみたいでね」
結局、1週間もしないうちに引っ越した。
聞けば、その亡くなった人の自殺した方法が、駐車場に停めた車の中でのガス自殺だったとか。
苦しかったと思う。
そういえば俺も、なんだか同じような苦しみを味わったような気がした。
(終)