3つあるトイレの真ん中は呪われている 1/3

トイレ

 

私のバイト先での出来事です。

 

発端は1年ちょっと前で、

衝撃的な出来事でした。

 

当時のことは今も鮮明に

覚えています。

 

バイト先に、

A君という社員がいました。

 

年は私より一つ下で、

高卒で入社したそうです。

 

彼は、職場で皆から

嫌悪されていました。

 

外見もあまりよくないのですが、

それ以上に性格に問題がありました。

 

私はバイトに入って日が浅く、

 

彼とは1週間しか一緒に

働かなかったのですが、

 

それでも何度か酷い嫌味を言われ、

気が滅入りました。

 

そのA君、

 

私が入った一週間後に

救急車で運ばれました。

 

男子トイレには3つの洋式トイレがあるそうで、

その真ん中で失神していたといいます。

 

私も救急車に乗せられる彼の顔を見ましたが、

人間とは思えない様な凄い形相でした。

 

私は彼を心配した風に装いながら、

 

内心は嫌な社員が消えて、

ほっとしていました。

 

しかし、その後の

周囲の反応には驚きました。

 

皆がA君の悪口を言ったのです。

 

「あのバカ、使えないから

仕事が回ってかないだろ?

 

で、残業もないから、

 

上司の誰かが飲みに行く時、

いつも付いて行くじゃん?

 

で、上司に気に入られていると

勘違いしてか、

 

同僚や後輩を見下して、

偉そうに嫌味言うんだよな。

 

むかつく」

 

と、同僚の男性。

 

「重体らしいね、

もう退職して欲しい。

 

あの顔で私に色目なんて

使ってたんだから。

 

気持ち悪くてしょうがないっつーの」

 

と、派遣社員のHさん(女性)が言いました。

 

さらに、

 

A君とは比較的仲が良さそうだった

S君が続きました。

 

普段は穏やかな人です。

 

「あいつ、

拷問道具とか集めていたよ。

 

俺、あいつの家に

一回遊びに行ったけど、

 

気持ち悪くなった。

 

変態だよ。

マジでひく」

 

皆は、気の弱いS君が我慢して

A君に合わせていた事を知っていて、

 

同情していました。

 

「別に死んでくれてもいいよね」

 

誰かが言うと、

皆が爆笑しました。

 

脱線しますが、

 

この頃、男子トイレを利用する女性がいる

という苦情が頻繁に出され、

 

会社から女性従業員に、

 

トイレに入る前に確認するよう

指導がありました。

 

A君がトイレで無残な姿で発見される

少し前にも、

 

見慣れない女性が二人、

 

男子トイレから出て来たのが

目撃されていました。

 

それから一ヶ月ほど経った頃のことです。

 

T先輩が従業員に言いました。

 

「A君に面会が可能になったそうだ。

ひと安心だね。

 

そこで、皆でA君のお見舞いに

行ってあげたいと思うんだけど、

 

どうだろう」

 

T先輩は熱血漢で人望も厚く、

 

本気でA君の容態を

気にかけている様子なので、

 

皆は渋々ながらも

先輩の提案に従いました。

 

病院へ行く途中、

T先輩が皆に言いました。

 

「A君は頚部の椎間板ヘルニアだ。

 

神経が強く圧迫されて、

あまり身体を動かせない。

 

症状が重く、

 

下手に手術すると神経が麻痺してしまう

おそれがあるから、

 

時間をかけて薬で治す方法を

選んだそうだ」

 

A君は思った以上に大変な状態でした。

 

首を固定され、

身体が動かせません。

 

なぜか、声を出すのが苦しい様子で、

掠れた声で皆にお見舞のお礼を言いました。

 

目だけを動かして私達を見たA君は、

 

腕は動くようで、

手を差し出して握手を求めました。

 

しかし、T先輩以外は、

誰も応じようとしません。

 

私は同情から彼の手を握りました。

 

油っぽいその手は驚くほど冷たく、

小刻みに震えていた気がします。

 

私達がA君に別れを告げ

病室を出ようとすると、

 

彼はもの凄い声で喚き出しました。

 

それを見たT先輩が、

ナースコールのボタンを押しました。

 

程なく看護婦と医師がやってきて、

何かを注射してA君を眠らせました。

 

その後、

看護婦が病室の外で言いました。

 

「彼は人がいなくなるのを怖がるんです。

だから夜中もよく呼ばれるんですよ」

 

病院を出た私達は、

お茶を飲みに行きました。

 

T先輩は用事があるので

先に帰りました。

 

少し落ち着いた頃、

S君が、

 

「あいつ、少し頭もおかしく

なっているのかな」

 

と言うと、

 

他の男性社員が、

 

「もともと頭悪いけどねぇ。

ゴマすりしか能のないビビリ馬鹿だし」

 

と言いました。

 

「入院している割には、

少しも痩せてなかったよね」

 

派遣社員のHさんに至っては、

そんな不謹慎なことを言う始末。

 

一同、爆笑していましたが、

 

私はA君の悲惨な姿を思うと、

とても笑えませんでした。

 

(続く)3つあるトイレの真ん中は呪われている 2/3

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