3つあるトイレの真ん中は呪われている 3/3
それから数日後、
T先輩が再び従業員を集めて
言いました。
「A君は入院が長引く為、
長期の傷病休暇を取ることになった。
まずは半年だけれど、
とにかく早い回復を願おう」
その日の昼食で、
T先輩にもう少し話を聞くことが
出来ました。
「A君は症状が改善しないそうだ。
両親と医者から聞いたけど、
正直、社会復帰は難しいらしい」
皆、あれだけ悪口を言っていた手前、
気まずい雰囲気でした。
すると、
T先輩が少し小声で言いました。
「これは医者の話だけど・・・」
さらに声を潜めて囁きました。
「彼の首が時々、
あの日と同じ様に捻れてるそうだ。
原因は不明だが、
自然にそうなるとは考え難いって」
T先輩は、
さらに一言付け加えました。
「A君は一人になるのを怖がり、
誰かに殺されるとしきりに訴えているそうだ」
それを聞いた私達は、
皆同じことを想像したと思います。
A君が一人になった時に
何が起こるのか。
何が彼を怯えさせるのか。
その日、
S君と私は一緒に帰りました。
S君は暗い声で私に話しました。
「俺、あの日(A君が首を寝違えた日)、
メールの日付が変な事をAに伝えた。
そしたらAが凄い顔で俺を睨み、
胸倉を掴んで、
『お前か?お前なんだろ、
もうやめろよ!』
とか怒鳴って、
俺に突っかかって来たんだ。
首が痛かったから、
あいつすぐに手を離したけど。
何でそんなに怒ったのか、
分からなかった。
2007年2月ってのを凄い気にして、
あいつ、最後は泣いてたよ。
その後の二日は俺もちょっと気まずくて・・・。
携帯も失くしたし、
Aとは話していない。
なんであいつが俺の携帯を盗ったんだろ。
それに、自分のロッカーに隠しといて、
その後も俺にあんなメール送るのは・・・」
S君は必死に考えをまとめようとしていました。
「実はね・・・」
S君が最後に付け加えました。
「怒り出す前にあいつが俺に
相談したことがあるんだ。
ネットでトラブったとか何とか。
俺は、そんなのは気にしないで、
とにかく病院へ行くように勧めたけど」
私はA君のメールを思い出しました。
彼に付きまとっていた、
二人の女のことをです。
A君が救急車で運ばれたあの日から
1年以上経ちますが、
彼は依然として入院中です。
事件の後、
あの男子トイレのそばで怪我をしたり、
失神する人が何名もいました。
そんな経緯から、
その男子トイレは以来ずっと、
閉鎖されたままです。
彼らは皆一様に、
男子トイレから出て来る
見慣れない女性を見たと言います。
怪我や失神をする少し前に、
長髪の美女と髪を結い上げた美女を
見かけたと・・・。
また、ガラガラと何かを引き摺る音を
聞いたという人も少なくありません。
そのトイレは閉鎖された今でも、
『呪われた男子トイレ』
として恐れられています。
一方、女子従業員の間では、
別の噂も流れています。
女子トイレの真ん中のドアを開けると、
首が後方に捻じ曲がったA君が座っていて、
助けを求めて抱きついて来る、
というのですが、
これは流石に悪質な冗談でしょう。
しかし、
真ん中のトイレを使う人は
誰もいません。
今回、当時の私の日記と記憶を元に
やり取りを再現しましたが、
不明なことばかりです。
中でも、
A君が2007年2月という日付に
異常に反応した、
という点がとても気がかりです。
どこぞの怖い映画の様に、
あのメールが何かを暗示
しているのではないかと。
来年、A君の身に、
本当に悪いことが起こるのでは、
という不安を覚えます。
(この当時は2006年)
しかし、仮にそうなっても、
同僚に彼の不幸を悼む人はいないと思うと、
私はやるせない気持ちになります。
全ては単なる偶然なのかも知れませんが、
社内ではかなり怖い噂になっています。
(終)