3つあるトイレの真ん中は呪われている 2/3
さらに一週間ほど過ぎたある日。
T先輩が、
A君の休職が長引くので
彼の机とロッカーを片付けるよう、
S君と私に言いました。
私は机を、
S君はロッカーを担当しました。
私は机の片付けを終えて
A君の物を箱に詰め、
ロッカールームに運びました。
すると、
そこではS君とHさん、
他の数人が集まり、
携帯電話を囲んで談笑していました。
「これ、この前の年末に無くした
俺の携帯なんだけど、
Aのロッカーに入ってたよ。
見てよ、このメール」
S君が私に言いました。
それは、
A君がS君に送ったメールでした。
「続き見ようよ」
Hさんが可笑しそうに言いました。
『2007年2月14日、
俺、今年のクリスマスには
Hを誘う予定。
あいつは俺に本気だ。
間違いない。
そういや最近、
家の周りで女の子の二人組を
よく見かける。
どうやら俺に気がある』
S君が読み上げました。
Hさんは嫌悪感を隠さず、
「気持ち悪すぎ、あのデブ。
このまま死ねよ」
と吐き捨てました。
「日付が滅茶苦茶だよ?」
と私が言うとS君は、
「携帯が狂ってたみたい」
と答えました。
『2007年2月18日、
あの二人毎日来てる。
夜、俺の部屋を見てる時あるし。
絶対、どっちかの一人が
俺のこと好きなんだ。
Hが本命だけど、
あれならOK。
期待大!!』
『2007年2月19日、
今朝、二人に声かけた。
恥ずかしがって?逃げた。
マジ可愛い』
『2007年2月20日、
今朝、あの二人がアパートの
玄関近くにいた。
ちょっとストーカーっぽいけど
確定だろ?ラッキー』
S君はこれを読んだ後、
苦笑しながら言いました。
「あいつ、この頃は四六時中、
俺にこの二人の話をしててさぁ。
本当うざかったよ」
誰かが、
「つーか、警察に連絡しろよ。
でも、変態だから死んでいいや」
と言い放ちました。
『2007年2月21日、
首が痛い。
遅刻するってT先輩に伝えて。
寝違えた』
『2007年2月21日、
今朝、変な夢みた気がする。
あの女の子二人が、
ワッカに二本の鉄パイプの付いた道具で
俺の首を捻じ切ろうとした。
あれは鉄の渦巻きっていう、
拷問具に手を加えた感じ』
Hさんが、
「うわ、拷問に詳しすぎる。
ヤバすぎ」
と言いました。
ここでS君が、
「俺、この日に携帯を落としたから、
この後は俺も初めて」
と、楽しそうに宣言しました。
『2007年2月22日、
首痛い。
今朝、ドアを開けたら
あいつらがいた。
何かやべぇ。怖い』
『2007年2月23日、
お前無視してるだろ?
返事くれ。
痛みが酷いから今日病院に行く。
午前は会議あるから、
午後から半休取って帰る』
『2007年2月23日、
なんで?
あの二人がにいる。
注意してくれ。
鉄パイプ』
Hさんが、
「ラリってる?
何、鉄パイプって。
アホ?」
と、気持ち悪そうに言いました。
「なんだこれ?
何があったんだ?」
と、他の人も少し戸惑っていました。
『2007年2月23日、
今トイレ。
外に何かいる。
怖くて出れない。
鉄引きずってる音がする。
怖い頼む。迎えにきて。早く』
『2007年2月23日、
たすけてはやくまじ』
これが最後のメールでしたが、
さすがに誰も笑えません。
「トイレって電波入るんだ」
と、誰かが冗談ぽく言いましたが、
皆が無反応でした。
あの日、
A君はトイレで失神していました。
救急車へ運ばれる時、
私も皆も、
彼の状態を目撃しました。
彼の首は180度とまではいかずとも、
かなり後ろの方に捻れて、
正直、ありえない姿でした。
暫く黙っていると、
Hさんが言いました。
「確か、Aが運ばれた日、
男子トイレから二人の女の子が
出て来たのが目撃されたよね?」
その場では、
もう誰も何も言いませんでした。
S君は21日付の『鉄の渦巻き』のメールを、
考えを込む様にじっと見つめていました。