部屋に入って来れなかった幽霊
これは、今のアパートに引っ越したばかりの頃のこと。
その日は暑くて、ベランダの窓を開けて網戸にして寝ていた。
しかし夜中はやっぱり寝苦しくて、一度目を覚ましてしまった。
そしてふとベランダの方を見ると、窓の外に男が立っていた。
暗くて顔以外はよく見えなかったが、中年くらいの男だということは分かった。
まさか、泥棒!?
そう思ってどうしようか思考をめぐらしていると、「おい、開けろ!」、いきなり男がそう言ってきた。
しかし窓は開いているし、網戸にも鍵は付いていない。
それでも男は「開けろ!今すぐここを開けろ!」と喚き立てた。
それを見ている時に、ふと気付いた。
男には下半身がない。
・・・というよりも、上半身だけが浮いている状態だった。
それが分かるともう訳が分からなくなり、そのまま意識がなくなった。
次の日の朝、起きてすぐベランダを見てみると、もう男はいなかった。
どうして昨晩の男は部屋に入れなかったのだろう?と考えていると、窓の枠に百均で売っているような『立入禁止』と書かれてあるステッカーが貼ってあった。
どうも一昨日の部屋飲みの際に、友人がイタズラで貼っていったらしかった。
今思うと、その御守りでも御札でもないステッカーの『立入禁止』という文字が、俺を救ってくれたのかもしれない。
(終)