姦姦唾螺 5/7

一度、お母さんのとこに戻ると、

さっきとはうって変わって、

静かな口調で聞かれた。

 

B母「あそこで何をしたのか

話してちょうだい。それで全部わかるの。

昨夜、あそこで何をしたの?」

 

何を聞きたがっているのかは、

もちろんわかってたが、

答えるためにあれをまた思い出さなきゃ

いけないのが苦痛となり、

うまく伝えられなかった。

 

というか、あれを見たっていうのが、

大部分を占めてしまってたせいで、

何が原因かってのが、すっかり

置いてけぼりになってしまっていた。

 

「何を見たかでなく、何をしたか」

 

と尋ねるBのお母さんは、

それを指摘しているようだった。

 

Bのお母さんに言われ、

オレ達は何とか昨夜の事を思い出し、

原因を探った。

 

何を見たか?なら、オレ達も

今のBと同じ目にあってるはず。

 

だが、何をしたか?でも、

あれに対して

ほとんど同じ行動だったはずだ。

 

箱だってオレ達も触ったし、

ペットボトルみたいなのも

一応、オレ達も触わってる。

 

後は・・・楊枝・・・

 

二人とも気付いた。

楊枝だ。

 

あれにはBしか触ってないし、

形もずらしちゃってる。

しかも元に戻してない。

 

オレ達は、それをBのお母さんに伝えた。

 

すると、みるみる表情が変わり、

震えだした。

 

そしてすぐさま棚の引き出しから

何かの紙を取出し、それを見ながら

どこかに電話をかけた。

 

オレとAは、様子を見守るしかなかった。

 

しばらくどこかと電話で話した後、

戻ってきたBのお母さんは、

震える声でオレ達に言った。

 

B母「あちらに伺う形なら、

すぐにお会いしてくださる

そうだから、今すぐ帰って、

用意しておいてちょうだい。

あなた達のご両親には、

私から話しておくわ。

何も言わなくても、

準備してくれると思うから。

明後日、

またウチに来てちょうだい」

 

意味不明だった。

誰に会いにどこへ行くって?

 

説明を求めてもはぐらかされ、

すぐに帰らされた。

 

一応、二人とも真っすぐ

家に帰ってみると、

何を聞かれるでもなく、

「必ず行ってきなさい」

とだけ言われた。

 

意味がまったくわからんまま、

二日後にオレとAは、

Bのお母さんと三人で、

ある場所へ向かった。

 

Bは、前日すでに

連れていかれたらしい。

 

ちょっと遠いのかな・・・

ぐらいだと思ってたが、

町どころか県さえ違う。

 

新幹線で数時間かけて、

さらに駅から車で数時間。

 

絵に書いたような深い山奥の

村まで連れてかれた。

 

その村のまたさらに外れの方、

ある屋敷にオレ達は案内された。

 

でかくて古いお屋敷で、

離れや蔵なんかもある、

すごい立派なもんだった。

 

Bのお母さんが呼び鈴を鳴らすと、

おっさんと女の子がオレ達を出迎えた。

 

おっさんの方は、その筋みたいな

ガラ悪い感じでスーツ姿。

 

女の子は、オレ達より少し年上ぐらいで、

白装束に赤い袴。

 

いわゆる巫女さんの姿だった。

 

挨拶では、どうやら巫女さんの

伯父らしいおっさんは、

普通によくある名字を名乗ったんだが、

 

巫女さんは、

「あおいかんじょ?(オレはこう聞こえた)

とかいう、よくわからない名を名乗ってた。

 

名乗ると言っても、一般的な認識とは

全く違うものらしい。

 

よくわからんが、ようするに

彼女の家の素性は、

一切知る事が出来ないって事みたい。

 

実際オレ達は、その家や彼女達について

何も知らないけど、

とりあえずここでは見やすいように

『葵』って書くわ。

 

だだっ広い座敷に案内され、

わけもわからんまま、

ものものしい雰囲気で話が始まった。

 

伯父「息子さんは今、安静にさせてますわ。

この子らが一緒にいた子ですか?」

 

B母「はい。この三人で、

あの場所へ行ったようなんです」

 

伯父「そうですか。君ら、

わしらに話してもらえるか?

どこに行った、何をした、何を見た、

出来るだけ詳しくな」

 

突然話を振られて戸惑ったが、

オレとAは何とか詳しくその夜の出来事を、

おっさん達に話した。

 

ところが、

楊枝のくだりで「コラ、今なんつった?」と、

いきなりドスの効いた声で言われ、

オレ達は、ますます状況が飲み込めず、

混乱してしまった。

 

A「は、はい?」

 

伯父「おめぇら、まさか、

あれを動かしたんじゃねえだろうな!?」

 

身を乗り出し、

今にも掴み掛かってきそうな勢いで、

怒鳴られた。

 

すると、葵がそれを制止し、

蚊の泣くような、か細い声で話しだした。

 

「箱の中央・・・小さな棒のようなものが、

ある形を表すように置かれていたはずです。

それに触れましたか?触れた事によって、

少しでも形を変えてしまいましたか?」

 

オレ「はぁあの、動かしてしまいました。

形もずれちゃってたと思います」

 

「形を変えてしまったのはどなたか、

覚えてらっしゃいますか?

触ったかどうかではありません。

形を変えたかどうかです」

 

オレとAは顔を見合わせ、

Bだと告げた。

 

(続く)姦姦唾螺 6/7へ

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