姦姦唾螺 4/7
山への方角にずらっと続く
柵を伝った先、しかも、
こっち側にあいつが張り付いていた。
顔だけかと思ったそれは、
裸で上半身のみ、
右腕左腕が三本ずつあった。
それらで器用に綱と有刺鉄線を掴んで、
い~っと口を開けたまま、
巣を渡る蜘蛛のように、
こちらへ向かって来ていた。
とてつもない恐怖。
「うわぁぁぁぁ!!」
Aがとっさに上から飛び降り、
オレとBに倒れ込んできた。
それで、ハッ!としたオレ達は、
すぐにAを起こし、一気に入り口へ走った。
後ろは見れない。
前だけを見据え、
ひたすら必死で走った。
全力で走れば三十分もかからないだろうに、
何時間も走ったような気分だった。
入り口が見えてくると、
何やら人影も見えた。
おい、まさか・・・三人とも急停止し、
息を呑んで人影を確認した。
誰だかわからないが、
何人かが集まってる。
あいつじゃない。
そう確認出来た途端に再び走りだし、
その人達の中に飛び込んだ。
「おい!出てきたぞ!」
「まさか・・・、本当にあの柵の先に
行ってたのか!?」
「おーい!急いで奥さんに知らせろ!」
集まっていた人達は、
ざわざわとした様子で、
オレ達に駆け寄って来た。
何て話しかけられたか、
すぐにはわからないぐらい、
三人とも頭が真っ白で、
放心状態だった。
そのままオレ達は車に乗せられ、
すでに三時をまわっていたにも関わらず、
行事の時とかに使われる
集会所に連れてかれた。
中に入ると、うちは母親と姉貴が、
Aは親父、Bはお母さんが来ていた。
Bのお母さんはともかく、
ろくに会話した事すらなかった、
うちの母親まで泣いてて、
Aもこの時の親父の表情は、
普段見た事ないようなもんだったらしい。
B母「みんな無事だったんだね・・・!
よかった・・・!」
Bのお母さんとは違い、
オレは母親に殴られ、
Aも親父に殴られた。
だが、今まで聞いた事ない、
暖かい言葉をかけられた。
しばらくそれぞれが家族と接したところで、
Bのお母さんが話した。
B母「ごめんなさい。
今回の事はウチの主人、ひいては
私の責任です。
本当に申し訳ありませんでした・・・!
本当に・・・」
と、何度も頭を下げた。
よその家とはいえ、子供の前で
親がそんな姿を晒しているのは、
やっぱり嫌な気分だった。
A父「もういいだろう奥さん。
こうしてみんな無事だったんだから」
オレ母「そうよ。あなたのせいじゃない」
この後、ほとんど親同士で話が進められ、
オレ達はポカンとしてた。
時間が遅かったのもあって、
無事を確認しあって終わり・・・
って感じだった。
この時は、何の説明もないまま
解散したわ。
一夜明けた次の日の昼頃、
オレは姉貴に叩き起こされた。
目を覚ますと、昨夜の続きかというぐらい、
姉貴の表情が強ばっていた。
オレ「なんだよ?」
姉貴「Bのお母さんから電話。
やばい事になってるよ」
受話器を受け取り電話に出ると、
凄い剣幕で叫んできた。
B母「Bが・・・、Bがおかしいのよ!
昨夜あそこで何したの!?
柵の先へ行っただけじゃなかったの!?」
とても会話になるような雰囲気じゃなく、
いったん電話を切って、
オレはBの家へ向かった。
同じ電話を受けたらしくAも来ていて、
二人でBのお母さんに話を聞いた。
話によると、Bは昨夜家に帰ってから、
急に両手両足が痛いと叫びだした。
痛くて動かせないという事なのか、
両手両足をぴんと伸ばした状態で倒れ、
その体勢で痛い痛いと、
のたうちまわったらしい。
お母さんが何とか対応しようとするも、
「いてぇよぉ」と叫ぶばかりで、
意味がわからない。
必死で部屋までは運べたが、
ずっとそれが続いてるので、
オレ達はどうなのかと思い、
電話してきたという事だった。
話を聞いてすぐBの部屋へ向かうと、
階段からでも叫んでいるのが聞こえた。
「いてぇいてぇよぉ!」
と、繰り返している。
部屋に入ると、
やはり手足はぴんと伸びたまま、
のたうちまわっていた。
オレ「おい!どうした!」
A「しっかりしろ!どうしたんだよ!」
オレ達が呼び掛けても、
「いてぇよぉ」と叫ぶだけで、
目線すら合わせない。
どうなってんだ・・・オレとAは、
何が何だかさっぱりわからなかった。
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