売れても必ず下取りで戻ってくるブツ
俺は古物商。
品物がらみの怖い話に遭遇したことはあまりないが、人間の生々しさにアテられて具合が悪くなることはたまにある。
これは、ある時計にまつわる話。
“売れても数ヶ月で必ず下取りで戻ってくるブツ”というのがたまにあるが、そういったものを仲間内では『ブーメラン』と呼んでいた。
腐れ縁のような感じ
たまたま状態が良くないとか、市場価値的に中途半端だとか、品物に責任がありそうな場合もあるが、大抵がブツには一切問題ない。
ただ、こういったブツは何故か目の利く玄人には売れない。
一見さんか、それに近い人が買っていく。
もちろん相場より安く並べているから魅力的なはずだ。
でも、すぐ下取りになる。
それにほとんどが、「引取り値はいくらでも構いませんから・・・」みたいなことを言う。
仕方がないので仲間業者に投げ売ったりもする。
それでも半年後に帰って来たこともある。
大阪の仲間業者から仕入れて、地元で2回売って下取ってを繰り返し、たまたま大阪の客に売った。
その仲間業者と音信不通になり暫くして、神戸の業者とバーター(物々交換)した時に、よく見たらその時計が混じっていた。
シリアルもドンピシャだ。
最後には香港に流してそれっきりだったが、数年後に全く付き合いのない大阪の業者がその時計を持っているのを見て仰天した。
こういうブツが今も手元に2~3個ある。
あとがき
ブーメランの類は、自分としては「ちょっと不快だな」という程度。
今のところの最長は、足掛け9年目のブツが手元にある。
ちなみに、8人の客を経て在庫に戻っている。
愛着が湧いたりはしないが、”腐れ縁”のような感じだ。
でも長年続くと何ともいえない苦笑で迎える。
品物単体には念が篭っているとか意思があるとか感じたことはないが、品物や金の流通する経路には不思議な縁があるかもしれないとは思うことがある。
目に見えない獣道のようなものだ。
ブーメランも、自分を中心とした衛星軌道のようなものに乗ってぐるぐる回っているような気がする。
好き嫌いに関わらず、勝手に寄って来てしまう道もあれば、自分が望んで願っていることによって開ける道もあったり。
よく言われる霊道や風水の地脈なども、そんな類のものではないかと思ったりもする。
(終)