銀時計

 

家は昔質屋だったと言っても、

じいちゃんが17歳の頃までだから、

 

私は話でしか知らないのだけど、

結構面白い話を聞けた。

 

日清・日露と勝戦続きで

景気が良く、

 

日本では輸入品を扱う

変な商売人が増え出した頃。

 

「・・・っとまぁそんなわけで、

 

この中国から渡って来た

カッパの手、

 

煎じて飲めばどんな奇病も

治すと言われ・・・」

 

胡散臭い輸入商人が

機関銃の様に喋っているのを、

 

「ファ~」

 

っと、でかいあくびで

おやじが断ち切った。

 

「わり~が、孫の手なら

間に合ってるんだ。

 

ほか当たっとくれ」

 

ピシャリと言うと、

 

デブ商人は慌てて鞄から

色々な物を取り出し、

 

アレやコレやと

他の物を勧めて来た。

 

ウンザリと言った顔をしていたおやじが、

急に目の色を変えた。

 

「おい、あんたその時計。

それなら買うぞ!」

 

おやじが興味を示したのは

鞄の中ではなく、

 

商人が腰に下げていた

外来物の時計。

 

壊れてはいたが、

 

立派な細工から高価な事は

喜一にも分かった。

 

輸入商人は眉を潜めたが、

さすがは商売屋。

 

おやじは渋る相手から3割値切り、

 

処分に困っていたガラクタまで

押し付けたのだった。

 

おやじは上機嫌だったが、

 

壊れて動かない時計の

何がいいのか分からず、

 

「カッパの手は何で買わなかったんだよ。

本当に水掻きがあったのに」

 

と漏らすと、

 

「あんなもん、

 

清のガキの手を切り干して細工した、

紛い物に決まってるだろうが」

 

と言い切られてしまった。

 

翌朝、食卓でおやじが

「好かん」と言った。

 

家族全員が固まった。

 

おやじの「好かん」は

「よくない」と言う意味で、

 

機嫌が悪い時にも使われた

言葉だったからだ。

 

おやじは朝食に箸もつけず、

家を出て行った。

 

朝食はおやじの好物。

 

喜一はここ三日は、

特に叱られる事はしていなかった。

 

何より、

 

昨日はあんなに上機嫌だったのに・・・

家族皆、首を傾げた。

 

店番をしていると、

おやじが夕暮れに帰って来た。

 

どこに行っていたのか聞くと、

おやじはため息をついた。

 

「信じられねぇとは思うが、

俺は今日を4回繰り返してる。

 

寝て起きたらまた今日なんだ・・・」

 

喜一は驚かなかった。

 

それより、初めて見た

おやじの参った顔に驚いた。

 

おやじはあの日、

時計の中を開けた。

 

そこには、

 

わざと歯車が動かない様に

ネジが詰められていた。

 

おやじはそれが、

 

どういった物なのかなんて

とっくに気付いていた。

 

気付いていたが、

ネジを抜き取ってしまった・・・。

 

時計は動いた。

 

そして、おやじの時間が

止まってしまった。

 

「あぁ~

 

分かってたんだよな~

憑いてるって・・・

 

なんでかな~

 

いけると思ったが、

まさかこう来るとは」

 

自分の好奇心と、

 

最近天狗になっていた事を

悔やんで愚痴った。

 

ベットに横たわる女性と、

 

その横で時計を作る男の姿が

おやじには見えていた。

 

そして、

 

『共に時を刻もう。

 

それが叶わぬなら、

いっそ時が止まってしまえばいいのに』

 

そんな願いも聞こえていた。

 

顔を上げ、

頭をボリボリ掻くと、

 

「俺の負けだ・・・

仕方ない・・・」

 

そう言っておやじは、

納屋から金槌を持って来た。

 

喜一が声を上げるより早く

槌は振り落とされ、

 

時計は簡単に砕かれた。

 

「何で!?

あんなに気に入ってたのに」

 

喜一がおやじの顔を見上げると、

 

「いいんだよ、

最悪こうしてくれってさ・・・」

 

覇気のない顔と声でそう呟くと、

床間にたどり着く前に、

 

茶の間でおやじは倒れる様に

寝てしまった。

 

喜一は知らない。

 

霊が時計に取り憑いている理由や、

 

おやじが霊と、

どんな勝負や約束をしたのか。

 

聞いても、

 

「ガキが聞く話じゃねぇ」

 

と、あしらわれた。

 

でも知っていた。

 

おやじが筋の通った

男だという事は。

 

物にも人にも、

人じゃない者にも。

 

だからきっとおやじの4日間は、

 

時計の為に、霊の為に、

走り回っていたんだろう、

 

と喜一は感じていた。

 

「・・・っとに、何だよ。

 

店まかっせっきりにしといて

ガキ扱いかよ・・・」

 

そう、ふて腐れ床に就いたが、

 

翌日に喜一は、

 

初めて自分から蔵掃除の

手伝いをしたそうだ。

 

(終)

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