その峠は夜になるとゴーストライダーが現れる
これは、ある峠をバイク友達の浩樹(仮名)と二人で走っていた時の話。
そこは夜になると『ゴーストライダーが現れる』と噂される場所で、浩樹はソイツと勝負するつもりで来ていた。
夜になり俺たちが走り始めると、前方からマフラーの音が聞こえてきた。
ゴーストライダーはリムから何まで真っ黒に塗装されているらしいので、一目見ればすぐ分かるはずだ。
浩樹は凄い速さで前を突き進み、俺は置いていかれた。
首無しライダー
しばらくすると、「バチンッ」と大きな音が聞こえ、追い付くとそこには浩樹が呆然と立ち尽くしていた。
「あと少しだったんだが、ブレーキ壊れちまった」
見ると、ネジが無くなり、不自然にリアが壊れていた。
「後な、あのゴーストライダーの噂、知ってるか?」
俺はゴーストライダーの話は浩樹から聞いていたので、それ以上は知らない。
「この峠に出るゴーストライダーってのはな、首無しライダーのことらしいんだ」
峠を出たところにはバイク屋があり、夜だというのに頼むと開けてくれた。
壊れたリアブレーキを見せると、バイク屋のおっさんが話し始めた。
「やっぱな、この時期は多いんだよ。首無しライダー、だろ?」
俺たちの顔を見て息を吐くと、おっさんは話を続けた。
「あのカーブの後な、お前がブレーキ壊された後のカーブな、ガードレールが凹んでて、すげえ危険なんだ。首無しライダーに感謝しろよ。崖から落ちたら死んじまう。ハハハ」
おっさんは笑ってそう話した。
そして去り際、おっさんはさらにこう言った。
「次は首無しライダーに止められないライテクつけてから出直しな」(ライテク = ライディングテクニック)
次の週、俺たちはまたその峠に向かった。
今回は勝負ではなく、ガードレールを見るために。
確かにガードレールは凹んでいて、少しでもスピードを出し過ぎると崖下へ一直線だ。
ガードレールの下には花が置いてあった。
俺たちはしゃがみこみ、ガードレールを見つめた。
すると、ガードレールの裏側に何か書いてあることに気がついた。
『今度こそ追いついてやる』、『ブレーキ壊すなよ』。
そんな文言がたくさんある中、一際目立つ一文を見つけた。
『ありがとうございました。○○』
この○○には名前が書いてあり、日本を代表するレーサーの名前だった。
俺たちはバイク屋のおっさんに詳しい話を聞きに行った。
ガードレールの裏を見たことを言うと、快く話し始めてくれた。
「こっちこい」
倉庫の片隅に案内され、おっさんはシートをめくる。
そこには真っ黒な壊れたバイクが横たわっていた。
「お前が見たの、これだろ」
浩樹が頷く。
「俺の常連客でな、死んじまったんだよ。未だに幽霊で走ってるらしいけど、カーブから先には付いて来ねえんだと」
おっさんは今にも泣きそうだった。
その倉庫内に○○とおっさんが一緒に写っている写真を見つけ、おっさんにガードレール裏の文言の話をしてみた。
「あぁ、知ってるよ。○○もブレーキ壊されたって言ってウチに来たんだ。ただな、ガードレールの裏を見りゃわかるが、○○は勝ったんだよ。○○がカーブを終えたらな、バイクもマフラーの音も消えたんだと」
(終)