窓に映る異形な自分に気づいた夜
これは、高校時代の頃の体験談です。
バスケ部だった私は、次の日がインターハイ予選ということもあり、緊張のせいかなかなか寝付けませんでした。
早く寝なきゃと思えば思うほど、眠れずに時間だけが過ぎていきました。
3時頃になっても全く眠れず、というより眠くもなく、頭の中は明日の試合のことと早く寝なければの二つだけ。
ふと、軽く汗を流して強引に寝ようと思い立ち、赤いTシャツに着替え、外を走ることにしました。
20分ほど走ったでしょうか。
梅雨時ということもあり、外はかなりジメジメしていました。
程よく疲れ、早くシャワーも浴びたかったので、近道をしようと普段のランニングコースを外れて住宅街の中を通りました。
その住宅街はちょっとした森に面しており、真っ暗闇の中、左側の森と右側の住宅街に挟まれた細い遊歩道を走っていました。
遊歩道に入ってしばらくすると、突然悪寒が走りました。
頭の中ではオバケ?など、嫌なことを考え始めてしまいました。
その時でした。
自分の走っている足音が、なんだかおかしいことに気づきました。
自分のものとは明らかに違うもう一つの足音が、ペースを合わせて付いてくる感じで不規則に聞こえてくるのです。
小心者の私はとても怖くなり、走っている足を早めました。
当然、息も上がります。
すると今度は、自分の呼吸とは違うリズムの呼吸が、後ろの方から聞こえてきました。
まるで犬に追いかけられているような感じでしょうか。
そして徐々に、後ろから聞こえてくる呼吸が近くなってきます。
変質者かな?とも思ったのですが、うなじの辺りに生ぬるい呼吸を感じて、それは変質者どころか人の呼吸とは思えませんでした。
ひどく土臭いのです。
しまいには、吐息は耳元で聞こえます。
全身に鳥肌が立ちました。
恐怖に我慢できなくなり、とうとう振り返りました。
しかしそこには何もなく、呼吸も足音も、自分のものしか聞こえなくなりました。
少々怖がりすぎた自分が恥ずかしくなり、ほっとしてまた走り出しました。
ふと、右側の家の大きなガラス張りの窓に目が行きました。
遊歩道に面していることもあり、厚手のカーテンか引いてあります。
その窓には自分の姿が映っています。
ただ、それ以外のものも映っていました。
最初は気づきませんでした。
赤いTシャツを着て、首にタオルは、いつも走っている時の服装でしたので。
でも何処かで違和感を感じたんだと思います。
横目に大きなガラス張りの窓を見ながら、再度走り出しました。
私はガラス窓に映った走る自分を見て、腰を抜かしそうになりました。
違和感の正体はタオルでした。
タオルだと思っていたものは、『ザンバラ髪の女の上半身』でした。
私にしがみ付いていたのです。
首に巻いていると思っていたのは、その女の白い腕でした。
走りながらなので、窓に映った姿なんて見間違えだろうと思うかもしれませんが、私にはそれが女の上半身としか見えませんでした。
実はこの日、タオルを忘れていました。
そして何より、走るリズムに合わせてザンバラ髪を振りながら、頭部がガクンガクンと揺れていたのです。※ザンバラ髪=形が崩れて乱れた髪
いつの間にか追い付かれていたようです。
その後は、膝も腰も立たなくなりながらも、なんとか逃げるように帰りました。
結局は一睡もできず、試合もボロ負けで…。
後にも先にもおかしな体験をしたのはこれだけです。
もしかすると、今でも憑いているのかもしれませんが。
(終)