祖父母の家で奉公していた少女の話
これは、祖母から聞いた話です。
母と二時間ドラマを見ていて、「お手伝いさんの名前って大抵アケミやねえ」と私が言うと、母が「そういやママが子供の頃にいたお手伝いさんの一人もアケミちゃんやったわあ」と。※名前は仮名
「お手伝いさんなんていたの!?」と私。
つい今の時代と照らし合わせて驚いてしまったけれど、大金持ちというわけではないけれど、戦前から田舎町の名士という感じの祖父母の家は大きく、お手伝いさんがいても不思議ではないかもしれません。
後日、祖母の家へ行った時に、その事を聞いてみました。
この町に戻って来たかった
「昔はこの家にアケミさんって、お手伝いさんおったんやってねえ?」
「ああ、アケミちゃんって子がおってなあ・・・」
そのアケミちゃんというお手伝いさんは、田舎村から奉公に来ていた、まだ16~7歳の少女だったらしい。
曾祖父母、祖父母もアケミちゃんを可愛がり、母や弟二人も懐いていて、特によく買い物へ行く商店のおばさんが彼女を可愛がっていたそうです。
祖母がお誕生日か何かにプレゼントをしてあげたコートが彼女は大好きで、どこに行くにも着ていき、商店のおばさんに褒めてもらうと、「奥様に買ってもらったの!」と嬉しそうに言っていたそうです。
しかし数年後、アケミちゃんは結核にかかってしまい、田舎に帰らざるを得なくなりました。
「帰りたくない」と泣いていたそうですが、そういうわけにもいかず、祖母も「実家でゆっくり静養して、治ったらまた雇ってあげるから戻っておいで」と言い、迎えに来ていたご両親に預けました。
数ヵ月後、商店のおばさんが祖母にこう言いました。
「アケミちゃん、帰って来たんやねえ。でも先日声かけたら無視されてねえ。どうしたんやろ?」
しかし実際には、アケミちゃんは帰って来ていませんでした。
「よく似た子やないかしら?」
「でも、あの、あんたに買ってもらったていうコート着てたよ?」
「それなら間違いないわねえ?じゃあ近くに来てたのかしら?」
数週間後、アケミちゃんの母親から『アケミちゃんが亡くなった』旨の手紙が届いたそうです。
それも、商店のおばさんがアケミちゃんを見たその日に亡くなったいたようです。
祖母は、「この町に戻って来たかったんやねえ・・・」と呟いていました。
(終)