幽霊船を見た者だけが生き残るという伝説
死んだ爺さんに面白い話を聞いたことがある。
爺さんは元々漁船乗りだったが、終戦間際に軍により船ごと徴用された。
そして与えられた仕事は、日本のはるか南の海上に出張り、B-29爆撃機が頭上を通るのを見ては通報すること。
これがとんでもない任務で、こちらから見えるということは向こうからも見える訳で、本土空襲の帰り際のB-29による銃撃や、米軍の艦載機による空襲やらで片っ端から沈められてしまったらしい。
そんなある夜、マジモノの幽霊船が爺さんの乗った漁船の前に現れた。
幽霊船は縁起物
当時は『幽霊船は縁起物だ』と言われていたので、すぐさま海軍派遣の艇長が「総員上甲板!」と叫び、船倉で眠っていた連中を叩き起こして全員で見ようとしたそうな。
しかし、機関員の一人が間に合わず、彼が甲板に出てきた時には幽霊船はもう消えた後だった。
ちなみに、その幽霊船は江戸時代のものらしい日本の帆船で、人の姿は全く無かったらしい。
翌日、爺さんの乗る船は米軍機の空襲を受け、機関は損傷したものの一人を除いて全員無傷だった。
その一人は件の機関員で、どういう訳か彼だけが銃撃をマトモに食らってしまい、機関室の中でバラバラになっていたそうな。
追記
爺さんの船は爆撃ではなく複数機による銃撃を受けた。
当事の漁船は木製だった為、機関銃の弾でもブスブスと突き抜けてしまう。
その攻撃の後、船はそれこそ穴だらけになってしまい、浸水してきた海水を交代で汲み出し続けてどうにか浮かび続けていたそうな。
そんな状態だったのにもかかわらず、甲板に出て右往左往していた連中は無傷だったのに、機関室にいた一人だけが何故か銃弾を何発も食らっていた。
機関にも銃弾を食らっていた為に2日ほど漂流させられたが、後に任務中止の命令を受けたので、僚船に引っ張ってもらってどうにか帰ってきたという。
幽霊船が縁起物と言われるのは、『幽霊船を見た者だけが生き残る』という伝説があった為、艇長が「みんなで見れば全員生きて帰れる!」と思って号令をかけたらしい。
実際、それを見た者だけが生き残った。
(終)