人に取り憑き禍をなすミサキについて
これは、石じじいから聞いた話です。
人に取り憑き禍をなす悪霊として『ミサキ』というものがあります。
じじいの故郷の近くの土佐などでは、『七人ミサキ』という話がありました。
この名前は、今では全国でも知られているでしょう。
では、じじいがミサキについて私に語ってくれたことや、私の祖父母が語ってくれたことをお話します。
この死霊は、“非業の死を遂げた人が成仏できずに彷徨っているもの”らしいのです。※非業の死(ひごうのし)=前世から定められた寿命の終わらないうちに死ぬこと
水死者、焼死者、自殺者、行き倒れの霊。
地方によって違いはありますが、ミサキには海の沖や磯、また川で出会うことが多く、水との縁が深いようです。
これに取り憑かれると、医者にかかるのは二の次で、呪禁により取り祓うとか。※呪禁(じゅごん)=まじないを唱えて物の怪などの災いをはらうこと
送り念仏、神職による祓い、僧侶による祈祷などで落とし、その後に医者にかかります。
結局、医者の手当を受けることは外せない、ということが現代的です。
巫女によって、その取り憑いたミサキの無念を語らせることもあったそうです。
ミサキは、夕方暗くなった時に海の近くの山を歩いていると、取り憑いて海へ誘い込むのだそうです。
犬の鳴き声がすると、それに憑かれたことに気が付くとか。
ミサキのためには、お盆には軒下に芭蕉(ばしょう)の葉っぱを置いて、その上に精霊棚でお供えするものと同じものをお供えするのだそうです。※精霊棚(しょうりょうだな)=お盆において先祖の精霊(しょうりょう)を迎えるための棚
また、あるところでは、寺の近くの丘の東南の斜面にある墓地の端に、墓石ではない自然石を積んで塚とし、ミサキを祀っていたそうです。
七人ミサキとは、山へ狩りに行った七人の狩人が遭難して死んだのを弔うためのものだった、という話もあったそうです。
七人塚とも言われていました。
その時に、犬が七匹同時に死んだそうです。
また、昔に殿様の鷹狩の際に、無礼があったとして七人の村人が殺害されましたが、そうして惨(むご)たらしい殺され方をした人は成仏できず、“人を道連れに殺す”のだそうです。
そうすることで成仏できるのだそうです。
七人の6倍、42人殺すのだとか。
この言い伝えがある地方には、『七霊の合祀』という碑が建っているそうです。※合祀(ごうし)=合わせて祀ること(埋葬すること)
じじい曰く、「昔はな、お遍路さんの行き倒れもようけあったんで。健康な人ばっかりやなかったけんね。死に場所を探して歩きよった人もおんさったようよ。わしが子供の頃も、行き倒れた人が何人もおってな、村でお葬式したもんよ」と。
(終)