ある音で目が覚まされる奇妙な山小屋
これは、知り合いの話。
彼の実家は山奥にあるのだが、そこには『奇妙な山小屋』があったという。
その山小屋は里の皆が協力して作った仕事場で、山に入る者に限り自由に使うことが許されていたらしい。
そこで寝ていると、明け方、ある音で目が覚まされることがあるのだと。
トントンと包丁でまな板を叩くような、小気味の良い音。
しかし起きてみると、炊事場代わりの土間には誰の姿もない。
里ではこの音のことを「青菜切り」とか「青物切り」と呼んでいたそうだ。
この音を聞いた者は結婚願望が強くなるようで、遠からず嫁をもらうのだという。
昔は里に永く独り者でいる男がいると、ここに強引に寝泊まりさせたのだとか。
一種の縁結びの神様的な扱いをされていたと聞く。
この青菜切りという怪は人に憑く性質があるらしく、これを聞いた男が結婚して所帯を持っても、誰も居ないはずの台所でトントンと聞こえることがあるそうだ。
「お節介な存在だよなぁ」と言っていた彼は、まだ独身である。
「そこに泊まってみたら?」と言う私に、「うーむ」と難しそうな顔をした。
(終)
スポンサーリンク