患者さんが妙に早く亡くなる病室
これは、前の職場での話。
私が前に勤めていた病院では終末期医療をやっていて、とにかく亡くなる人が多かった。
死亡直前で治療が出来ない人が入る場所なので、当然といえば当然だが。
それに勤務している看護師も、コメディカルも、医者も、全員が霊感が全くない人ばかりだったので、多くの人が亡くなる深夜帯に遺体と二人きりになっても誰も怖がらないような職場だった。
ただ、理事長だけは自称『みえる人』だったので、また占い師を雇っており、その占いに従って病院のあちらこちらに謎の護符などを貼っていた。
「あの病室は入れ替わりが激しいね」
昨年の春頃だったと思うが、占い師が護符の貼る場所を全面的に変えた。
それ以降、とある病室でだけ患者さんが妙に早く亡くなるようになった。
統計を取ったわけではないが、「あの病室は入れ替わりが激しいね」と話題になった。
そして同年の夏頃に、系列病院から四十後半の、ダンゴムシを捕まえて鯉に食べさせるのが趣味という、謎の内科医が転院してきた。
曰く、「ターミナル医療をやってみたい」らしい。
その内科医を看護師などが病院内を案内したところ、護符の場所などをチェックしていている時に突然怒りだした。
「この貼り方じゃ、この部屋に道が出来る云々・・・」
誰も十分理解できなかった。
・・・が、後日の定例幹部会に占い師が顔を出した時に、その内科医が占い師を怒鳴りつけて護符の場所を変えさせた。
霊感が全くない私達はぽかーんとした感じで聞いていたが、その内科医の指摘に従って護符の場所を変えたり、荷物の場所を動かしたりしたところ、妙に患者さんが早く亡くなる件の病室が、他の病室と変わらないぐらいになった。
本人に聞いてみると、裏山(昔、火葬場があり、現在は街になっている)から霊道が云々と説明してくれたが、これまたよく理解できなかった。
こういう『みえる人』というのは大変なのだろうが、役に立つんだなと思った。
ただ、お迎えが近いじいさんやばあさんにダンゴムシを見せる癖だけは早く治してくれ、とは思ったが・・・。