妙な感じの人に妙な場所でたまに会う
これは3年程前になるが、軽い腎炎で地元の市立病院に入院した時の話。
2日ぐらい点滴を受けたら高熱も引き、若いからそれだけでもう気分は健康体だったが、医者がそれで許してくれるはずもなく結局2週間近く入院していた。
なので察しはつくだろうが、何しろ退屈だった。
やることがないので昼間からテレビを見ながらウトウトしたりして、当然のことながら夜は眠れない。
その夜も2時半を回った頃に目が覚めて、どうしようもないから1階にある喫煙所に行った。
痩せ細った老人
30分くらいの時間を、そこで一服したり、お茶を飲んだりしてぼんやり過ごした。
そして、そろそろ寝ようかとロビーに戻り、中央エレベーターと呼ばれる8つのエレベーター群の一つの『▲』ボタンを押した。
だが、ドアは開かない。
このエレベーターは使用する人がいなければ、自動的に1階に戻って待機しているはずである。
ドア上の階数表示を見ると、地下3階から上がって来るところだ。
他のエレベーターに目を巡らすと、どれもちゃんと1階で止まっている。
夜勤の看護士さんかな?と思う間もなく、エレベーターが到着してドアが開いた。
人が居た。
しかし、どう見ても看護士ではない。
それに、男か女かも分からない。
カカシのように突っ立っている。
その人は痩せ細っていて老人のような印象だが、定かではない。
だぶだぶの白い着衣に負けず劣らずの真っ白な顔。
だらんと両脇にぶら下げた腕。
大きく見開いた目は少しグレー色で、俺を見ているのか見ていないのか・・・。
正面から顔を突き合わせたのに、瞬きもしない。
表情も微動だにしない。
反応はゼロだ。
「すっ、すいません」
俺はなぜか謝り、数歩退く。
ドアが閉まり、その人を乗せたエレベーターは一気に屋上まで上って行った。
もちろんそれが戻って来る前に、他のエレベーターで急いで自室の6階に帰り、布団に潜り込んだ。
翌日、昨晩の出来事を看護士さん話すと、こう言っていた。
具合が悪くて長期入院になる人の中には、ノイローゼ気味から夢遊病になる人もいるそうな。
今現在その気のある患者さんの報告はないらしかったが、念のため調べてみると。
俺がご対面したのも、そういう患者さんだったんだとは思う。
ただ、俺はそんな感じの人には時々、妙な場所で会う。
深夜のコンビニの角とか、真っ昼間のタクシー乗り場とか。
他にも、誰も住んでいない取り壊し予定の古いアパートの窓とか。
あれほど間近でご対面したのは初めてだったが・・・。
友人の一人に話してみると、「気にするな」と笑顔で言う。
俺はよく言えば現実主義で、悪く言えば無神経だ。
嫌なことも一晩寝れば大抵忘れる。
その友人は、「それが妙なモノから身を守る役に立つこともあるんだよ」と付け加えた。
誉められたのか何なのかよく分からないが、実はあまり気にしていない。
(終)