遺言は「百貨店の売り場に散骨してほしい」
これは、アメリカに留学していた時の話。
ある日、大学同期の女子の母が癌で亡くなった。
その遺言が、「○○百貨店△階のキッチンウェア売り場に散骨してほしい」だった。
彼女の母は熱狂的なキッチングッズマニアで、暇さえあればその売り場に足を運んでいたという。
若気の至りもあり、私は彼女を含む大学の仲間達と数人で粉砕した母の遺骨を持って当の売り場に行き、ディスプレイ商品の陰などにこっそりと骨粉を撒いてまわった。
騒ぎにならなかったところをみると、誰も気づかなかったのか、気づいた百貨店側が片付けたのか揉み消されたのだろう。
ちなみに時期的には、炭疽菌事件や911テロよりずっと前の平和な時代のこと。
それから数年後、その時の仲間の一人が偶然知り合った○○百貨店のキッチンウェア売り場の女性店員からこんな話を聞いたそうだ。
「セール時期などに女性の幽霊が出る」
その幽霊の年恰好を聞くと、どうも癌で亡くなった同期女子の母のようだった。
なので、それを聞かされた仲間はこう答えた。
「それは○○百貨店のキッチンウェア売り場の大ファンだった人。守護霊みたいなものだから、むしろラッキーだよ」
実際、その女性の幽霊が出た日には、キッチンウェアの売り上げがギュンと伸びるのだそうだ。
しかし、守護霊発言をした仲間は霊感があると勘違いされ、田舎町だけに噂が広まり、その後も色んな人達からオカルト関連の相談事をされて困っているという。
(終)