百貨店の店内をうろつく浮浪者の幽霊
これは、とある百貨店での幽霊話。
俺が働いている百貨店では時々、「店内を浮浪者がうろついているから何とかしてくれ」というクレームが入る。
しかしみんな慣れたもので、「おいおい、またか・・・」となる。
なぜなら、出入口から各階を警備員で固めているので、そんな輩が入り込めるはずがないのだ。
なので、みんな口を揃えて「見える人にはやはり見えるもんなんだな」と言う。
「浮浪者を何とかしてくれ」
この百貨店は戦後の復興期に隣に新館を建てて今に至るのだが、以前は旧館に3人の浮浪者が住み着いていたらしい。
何度追い出しても戻ってくるし、その頃は浮浪者も一般人も大して変わらない風体だったしで、さほど問題とはされなかったようだ。
そればかりか、店の連中とも仲良くし、ゴミ拾いなんかの仕事もして順応していたようだ。
しかし、徐々に街が復興し、隣に新館を建てる予定が出てくる頃となると少々話が違ってくる。
「今まで通り店内に居住させるのはいかがなものか?」という意見が多数となる。
実際、「汚らしい」などというクレームめいたものも客から出るようになってきた。
そのうちに新館の建設と共に旧館も全改装となり、主(おも)だった従業員は休みを取ることに。
そして従業員が改装終えた旧館に戻った時にはもう、3人の浮浪者は消えていたということだ。
何処に行ったのか知る者はいない。
語る者もいない。
今よりも人が消えやすい時代だったのだ。
しかし、それから現在に至るまでも、年に何度か客からクレームが入る。
「浮浪者を何とかしてくれ」と。
それも、決まって旧館だ。
その度に俺たち従業員はこう言うしかない。
「見える人にはやはり見えるもんなんですね」と。
(終)