迫り来るゴロゴロという音と死
これは、知り合いの話。
かつて仕事仲間の山村さん(仮名)から、ある悩み事を打ち明けられたのだという。
それは、山村さんは山登りを趣味にしているのだが、つい先日に「不気味なものを見た」のだと。
あの音に追いつかれた!?
沢沿いに下っていると、後ろからゴロゴロと大きな音がする。
慌てて振り向くと、車でも押し潰せそうな大岩が上流から転がって来ていた。
恐怖で一瞬硬直したのだが、すぐにおかしなことに気がついた。
岩はまるでスローモーションで再生されている映像のように、ゆっくりゆっくりと動いているのだ。
岩の表面は真っ赤な苔(コケ)のようなもので覆われていた。
岩がスピードアップしないのを確かめて、駆け足で山を下りたのだという。
問題はそれからだった。
街に帰って来た後も、ふと後ろからゴロゴロと音が聞こえてくる時がある。
ただ、とにかく前に向かって走り出すと、音は遠ざかっていくのだという。
そして忘れた頃に、また後ろから追いかけて来るのだと。
「だんだん音が大きくなっているんだ」
そう山村さんは打ち明けた。
さらに、「最近では夜もろくに眠れない。寝ている間に音がしたらどうしよう」とまで。
まともな返答が出来るわけもなく、かと言って山村さんの真剣な顔を見ると笑い飛ばすことも出来なかった。
なんらかの原因でノイローゼになったかも?と考え、無難な言葉で彼を励ました。
それから1ヶ月後、山村さんは突然の心臓麻痺でこの世を去った。
渋滞中の車の中で。
思わず、「あの音に追いつかれたのか!?」と疑った。
渋滞中だから逃げられなかったんだ、そうも考えてしまったそうだ。
知り合いは現在そのことについて、「馬鹿げた想像をしてしまった・・・」、そう口にしている。
しかし、後ろから大きな音がすると、何故か怖くて仕方がないのだそうだ。
(終)