この時間になるとよく来るんだよ
これは、私が大学生の時の体験話。
ある夜に渋谷で4人で飲んでいると終電に間に合わなくなったので、家が一番近かった聡志(仮名)の家までタクシーで行くことになった。
聡志の住む家は、共用の玄関で靴を脱いで各々の部屋が廊下で繋がっている、下宿のような古いアパートの2階の一室。
ちなみに、大家さんは別棟に住んでいるらしい。
午前3時頃に到着してすぐ、続きと言わんばかりの酒盛り開始。
そうして飲み始めて30分が経った時だった。
ガラガラガラと玄関の引き戸が開く音がして、誰かが階段をドンドンドンと大きな足音を立てて上がってくる。
うるせぇなぁと思っているうちに階段を上りきったらしく、向かいの部屋でガチャガチャとドアを開ける音と、その後にバタンと閉まる音がした。
気にせず飲んでいると、5分後くらいだっただろうか、また玄関の引き戸が開く音がする。
ガラガラガラ、ドンドンドン、ガチャ、バタン。
また向かいの部屋に入っていく音。
その時、部屋の主である聡志が淡々とした口調で言った。
「この時間になると、よく来るんだよ」
「何が?」
「いや、ここって俺しか住んでないはずなんだけどね」
「じゃあ、さっきから上って来るヤツは?」
「知らん」
「知らんて。それってマズいんじゃねぇの?」
「だって、ほんとに俺以外に誰もいねぇんだもん」
そんな会話をした後、酒も入って群れていたこともあってか、「じゃあ、見に行こうぜ!」となった。
廊下に出て向かいの部屋の前で様子を伺ってみたが、確かに物音や人の気配はない。
思い切ってドアノブを回し、ドアを開けてみた。
鍵はかかっていなかった。
誰もいない。
というより“空き部屋”だった。
その後、アパート内の全ての部屋を調べてみたが、聡志の言う通りどこも空き部屋だった。
一気に酔いが覚めた。
聡志曰く、この奇妙な現象はほぼ毎日あるらしい。
一度、階段を上がる足音がしている途中に、部屋から飛び出して見たそうだが、その瞬間に音は止み、辺りには誰もいなかったと。
あれは一体なんだったんだろうと思うと同時に、聡志の肝っ玉に呆れている。
(終)