ありえないメール受信と着信 1/2
恐い思いだけだったんだからいいや
と思う反面、
やっぱりあれは何だったのか
不思議で仕方がない。
もう4、5年は経ったし、
何より関係者全員が無事に生きてる。
事の発端は、仲間8人で居酒屋に
飲みに行った時の事。
早くに酔い潰れてしまった女の子がいた。
俺の友人の連れだ。
座敷で、広い座卓に突っ伏して
眠りこけた彼女を放っておいて、
俺たちは楽しんでいた。
そろそろ帰るかという話になり、
彼女を起こそうとするが起きようとしないので、
誰かが、
「携帯鳴らしてやれよ。起きると思うぞ」
と言い出した。
彼氏である友人がニヤニヤしながら、
彼女の携帯に呼び出しを始めた。
音から察するに、
携帯は彼女の突っ伏した腕の下に
ある事がわかった。
携帯ストラップも、
腕の下から覗いている。
10秒ほど鳴らしたが周囲の迷惑を考えてか、
友人は鳴らすのを止めた。
「あ~駄目だわ。
こいつ、寝起き悪いんだよね」
酒も入ってるし、
無理に起こすのも可哀相だからと、
しばらく待つつもりで俺たちは
腰を降ろしたその時、
友人の携帯にメール着信が入り、
開いた奴の顔からいきなり血の気が引いた。
「うわ、なんだよ・・・これ」
なんだなんだと、
俺たちの間でそいつの携帯が回された。
差出人は眠りこけてる彼女。
本文は『眠い、寝かせてよ』。
彼女の携帯は、
ずっと彼女の腕の下だ。
ストラップも見えている。
スーっと首の辺りが寒くなった気がしたものの、
飲みに来ていた他の仲間は、
「よく出来た悪戯だろ。すげえな」
と感心したので、
俺たちもその答えに納得して、
その夜はお開きになった。
それからしばらくして、
俺は仰天する事となる。
彼女が亡くなったのだ。
元々、体は弱かったらしい。
詳しく聞くのも悪いと思ったので、
結局聞いていない。
彼氏である友人の希望で、
俺は付き添って葬式に出る事になった。
他の仲間もやって来て斎場へ向かい、
受け付けを済ませ、
式の邪魔にならないよう、
隅の席で小さく無言で固まっていた。
読経が始まり、皆うなだれている。
その時ふと、
飲み会の事を思い出してゾッとした。
そしてなぜか、
そこに居る仲間たちも自分と同じ事を
思い出しているに違いない、
という気持ちがした。
そろそろ焼香かなという頃、
いきなり携帯が鳴り始めた。
おそらくその場に居た全員の携帯。
勿論、俺たちは消音にしていた。
でも、相当数の携帯のバイブが
一斉に反応したので、かなり音が響く。
中には会場に入る前に消音し忘れた人もいて、
慌てて切っていた。
呼び出しは始まりと同じく、
いきなり切れた。
それも全員一斉に。
俺たちは黙って、
顔を見合わせるしかなかった。
斎場を出て各々携帯を調べたら、
確かに同時に着信があった事がわかった。
それも非通知。
非通知着信拒否設定も意味がなかったらしく、
女の子の中にはパニックに陥る子もいた。
喫茶店に入って、
これまでの事を話し合った。
飲み会に来ていなかった連中に説明をしたり、
逆に俺たちが知らなかった他の事件について
教えてもらったり。
結論として、亡くなった彼女は、
かなり不気味な存在であることが判明した。
俺の知ってる彼女は内向的。
おとなしく、どちらかといえば地味。
控えめな人好きな友人のチョイスなので、
あまり気にはかけなかった。
飲み会でも喋らずに黙々と飲んでるタイプ。
ブスでも美人でもない。
というか、
印象が薄くてすぐに忘れてしまうんだ。
覚えてるのは、
貝殻が好きだった事。
いつか、店先でインテリアの貝殻を
手に取って耳に当てていた。
「私の耳は貝の耳。海の響きを懐かしむ」
と口ずさんでいた。
多分、詩だと思う。
「それ、海の音じゃないよ。
自分の体の中の音が反響してるんだってさ」
と、ロマンの欠片も無い俺が茶化すと、
ぼんやりした生気の無い彼女の顔に、
一瞬笑みがのぼった。
「○○君(俺)も、そのうち自分の貝殻に
耳を傾けるようになるよ。今にね。
きっとそうなるよ」
「そうかな、楽しみだね~」
なんて笑って肩をすくめてみたが、
彼女は真剣そのもので、
反応の薄い彼女にしちゃ珍しいな、
くらいにしか思わなかったんだ。
彼女の言ってた事が今回の件だったのかは、
最後までわからない。
他の奴も、彼女の風変わりさに
気付いていたらしい。
ある女の子は、
彼女が他界する一ヵ月前に街中で会って、
しばらく一緒に歩いて行ったそうだ。
買い物したらしく、
ショッピングバッグをいくつか持っていたので、
手助けすると彼女はとても喜んだらしい。
「あなたには特別に教えてあげる。
私ね、ちょっとだけ先の事がわかるんだ」
女の子は面白い冗談だと思ったようで、
「すごいじゃん。
株とか先物取引とかわかったら
お金持ちになれるよ」
と、相づちを打ったらしい。
「そういうのはわかんない。
興味ないからね」
と言われ、
「どういうのがわかるの?」
と尋ねると、
誰も居ない交差点の角を指差して、
「あそこに居る男の子わかる?
あの子はあさってここで死ぬんだよね」
そこまで聞いて全員顔を見合わせた。
死亡事故は、その通り起こっていた。
彼女は日にちも言い当ててた事になる。