日が暮れるとアブリコが出るぞ
これは、友人の怪異体験談。
夕暮れ時に、「出る」と噂される峠道を一人で歩いていた。
気がつくと、ズズッズズッと後をつけてくる音がある。
背後を見ると、足を引きずって歩いてくる小さな影が一つ。
ただ、そんなに暗くなってはいないのに、顔や服がどうにも見て取れない。
墨を流し込んだように、上から下まで真っ黒。
その時、風向きが変わり、影の方から異臭が流れてきた。
肉が焦げたような、嫌な臭い。
なぜかとてつもなく怖くなり、走って逃げ出したという。
「日が暮れるとアブリコが出るから、あんな所へ行くもんじゃない」
近所のお爺さんに、そう言われたのだそうだ。
「アブリコか・・・。”炙り子”とでも書くのかなぁ?」
彼は、そう言って首を傾げていた。
(終)
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