通夜の日の寝ずの番での怪異

線香

 

昔、爺さんの通夜で起こった不可解な出来事の話。

 

うちの地方の風習なのかもしれないが、通夜の夜は『線香の番』というものがある。

 

通夜の日は夜通し、線香の火を絶やさないように寝ずの番をするという決まり。

 

もう随分と前、うちの爺さんが大往生で亡くなり、当時大学生だった俺と、爺さんの末っ子だった叔父さんとの二人でその線香の番をすることになった。

 

田舎のこじんまりとした斎場で、爺さんの納まった棺を上座に置いて、花をちょこちょこと飾ってあった。

 

通夜自体は夜8時前には終わったが、その後もお客さんが三々五々に挨拶にやって来た。

 

ただそれも、夜10時過ぎには人気もなくなった。

 

その後、俺と叔父さんと親父で、爺さんの思い出話をしながら酒を飲んでいた。

 

0時過ぎに親父が帰り、そして1時を回った頃に叔父さんが「交代で寝よう」と言って控室に行った。

 

「3時半頃に戻る」と言って。

 

俺は薄暗い斎場の祭壇の前で、そのまま一人で酒を飲みながら線香の番をしていた。

 

線香が短くなると新しい線香に火をつける、といった具合に。

 

事が事なので漫画を持ち込んで読むわけにもいかず、現代のようにスマホがあるわけでなく、ただ一人ぼんやりと酒を飲みながら時間が経つのを待っていた。

 

ぼんやり灯る蛍光灯の下に、死んだ爺さんと二人きりで。

 

しばらくして2時を回った頃、しとしとと雨の音が聞こえてきた。

 

薄暗い照明の下で一人叔父さんとの交代の時間を待っていると、入り口の方から誰かがひょこひょことやって来る。

 

こんな時間にお客か?と思いながら見ると、古ぼけた和装の喪服を着た、坊主頭の見知らぬおっさんだった。

 

いがぐり頭で、エラが張って、ギョロっとした目の。

 

慌てて立ち上がって礼をすると、おっさんも礼を返し、棺に歩み寄ると爺さんの死に顔を見つめだす。

 

俺も起立して、手を前に組んでその様子を見やる。

 

ふと線香を見ると、だいぶ短くなっている。

 

いかんいかんと俺は新しい線香を取り出して、火をつけようとした。

 

すると、おっさんが炉の中のちびた線香にフーフーと息を吹きかけて、早く燃えつきさそうとしている。

 

ん?俺は怒られているのか?と思いながら、慌てて手に取った線香にチャッカマンで火をつけた。

 

しかしおっさんがこちらに駆け寄って来て、新しくつけた線香の火をフーフーとまた消そうとする。

 

満面の笑みで。

 

線香の火を絶やすと故人が成仏できないとか何とか聞いていた俺は、慌てて「何するんですか!?ちょっと冗談はやめて下さい!」と体をよじった。

 

新しい線香を炉の灰に刺すと、今度はそちらにフーフーと息を吹きかけて早く燃やそうとする。

 

子供っぽいおっさんやな、もしかしてイタイ人なのかな?と思いながらも、それでもかなりの目上の人だったのもあって、無理やり静止することも出来ず…。

 

仕方なく、秘密兵器の燃え尽きるのに10時間かかるという、渦巻き型の長い線香を取り出した。

 

チャッカマンでその渦巻き線香に点火しようとすると、またおっさんが近づいて来て、今度はチャッカマンを吹き消す。

 

酒も入って寝不足で、いい加減切れ気味になってきた俺は、「ちょっとマジ何なんすか!?やめて下さいよ!!」と、手でおっさんを掃いだした。

 

そしておっさんが右に回ると、俺は体を左によじって渦巻き線香に着火しても、おっさんが今度は左に回って火を吹き消す、といったコントのようなやり取りがしばらく続いた。

 

「ちょっとやめて!!」

 

おっさんを追い払うように、手をブンブンと振り回す。

 

負けじと満面の笑みを顔に張りつけて、フゥーフゥーと大きな息を吹きかけてくるおっさん。

 

そんな騒ぎを繰り返していると、後ろから誰かが俺の肩を叩いた。

 

「何やってんだ?蚊か?」

 

叔父さんが戻って来た。

 

「いや、この人が…」

 

そう言って前を見ると、誰も居ない。

 

あれ?逃げた?となってしまい、でも俺もはっきり我に返れず、「いや何も…」と誤魔化した。

 

「何だ?酔っぱらってんのか?線香の火は大丈夫か?」

 

さっき炉に刺した線香は、まだ3割ほど残っている。

 

良かった。

 

俺は渦巻き線香に火をつけながら、「うん、大丈夫。線香の火は絶やしてないよ。だって爺さん成仏できなくなるんでしょ?」と言うと、「お前、そうじゃないよ。線香の火を絶やすと故人が誰かをお供に連れて行くんだよ」と、ぼそり。

 

葬式の後、爺さんの形見分けではないが、爺さんの家にみんなで集まって精進落としをしながら酒を飲んでいた。

 

そして父が爺さんの古いアルバムを引っ張り出してきて、みんなで見始めた。

 

その中に、爺さんが太平洋戦争で中国本土に従事していた時の写真が数枚あって、爺さんの所属した分隊らしい写真があった。

 

若い姿の爺さんと、仲間らしい兵士7名程が並んで。

 

わぁ~若いな~爺さん親父そっくり~なんて思いながら見ていると、その中にあのおっさんを見つけた

 

険しい顔で腕を組み、軍帽を目深に被っていたが、エラの張った輪郭とギョロっとした目は、明らかにあのおっさんだった。

 

写真の下には『故・〇〇兵長』とあった。

 

ビックリして手が震えた。

 

通夜の日にあった騒動の一部始終を話そうかと思ったが、俺もだいぶ酒が入っていたし、叔父さんもそんな人は見ていない。

 

また、おっさんの謎の行動は爺さんとの確執を感じさせて、結局は言い出すことは出来なかった。

 

あれは夢だったのか、それとも現実だったのか。

 

もし現実なら、兵長さんはどうして線香の火を絶やしたかったのか、と考える時がたまにある。

 

(終)

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