箱回しと呼ばれる縁起を担ぐ風習

田舎の風景

 

これは、風習にまつわる話。

 

私の実家周辺の数軒で今もなお、『箱回し』とか『蓋回し』と呼ばれている、縁起を担ぐような風習がある。

 

この箱回しというのは、早くて4歳頃から“名字の変わっていない人だけ”ができることになっている。

 

ちなみに、回すのはルービックキューブをスライドさせるイメージに近い。

 

良いことがあれば続くよう右に回し、悪いことがあれば去るように左に回す。

 

年内ならどのタイミングで行っても可だが、年末の帰省の時に済ます人がほとんど。

 

約束事として「1回しか回してはいけない」と言われているが、1周すると凹凸が合わさったように動かなくなるので、結局は1回しか回せない。

 

だが、今年は少し普段と違った。

 

その箱回しで、叔父さんは何故か右に2回まわった。

 

叔父さんは叔母さんから箱回しのことは聞かされていたが、実際にするのは初めてで、本当に1回しか回らないのか興味本意で試したらしい。

 

そしたら回った…と。

 

私を含めて、みんなが「何だ、回るんじゃん」と囃し立てたかったが、鳥肌が凄いわ、猫は唸るわ、場にそぐわない異臭が漂い始めるわで、それどころではなかった。

 

霊感のようなものは誰一人として持っていないが、“まずいことが起きている”のはわかった。

 

普段から回した後に奉納してお清めをしてもらっている神社に、私の父とその兄2人に付き添われて叔父さんが箱を持っていった。

 

神社までの道中、叔父さんは箱の重さに耐えきれず、父らに引きずられるように歩いたとか、異臭が強くなりすぎて吐いたりとか、散々だったそう。

 

神社に着くなり、「何をしたんじゃ!」というようなお決まりの流れはなく、淡々と処理され、「まだ回していない人は奉納に来ていないお宅の箱をお借りしてください」と言われて帰ってきた。

 

私はまだ回してなかったので、隣家に事情を説明して回させてもらったが、やはり1回しか回らなかった。

 

どうやって2回まわせたのか、叔父さんに今後何も起きないのか、何もわからない。

 

ちなみに、この箱回しに使っている箱の中身は空っぽ。

 

直径は日清カップヌードルの蓋ぐらいで、どの家の箱も正方形ではなくて丸い。

 

ただ、蓋にある柄だけは違う。(うちはススキと馬)

 

回す感覚的には、丸い箱の蓋を開けずに回すのと同じ。

 

なのでお年寄りは、箱回しではなく蓋回しと言う人もいる。

 

回すのも1回と言うが、イメージとしては1周が正しい。

 

時計が1周して12時に針が止まることを1回とするような、良いことがあれば時計回りに、悪いことがあれば反時計回りに。

 

ちゃんと1周したとわかるの?と思うかもしれないが、それについては「蓋の柄のおかげ」と「1周すると動かなくるから」としか言えない。

 

これを数十年も当たり前にやってきた。

 

左右どちらに回すにしても、年内に一人1回限り。

 

回した人がまた回そうとしても、本当に動かない。

 

だから叔父さんの2回まわしは初めてで、本当に異例だった。

 

翌年にまた回せるようになるのは、納めてお清めをしてもらっているからと聞いている。

 

大晦日までに納める決まりだが、早く奉納するのも可なので、5月頃に持っていく家もある。

 

あとがき

叔父さんは叔母さんの夫で、婿入りした人。

 

叔母さんは父の姉。

 

縁起担ぎというのもあって、箱回しの風習を気に入っていた叔母さんは、名字が変わると箱回しに参加できなくなるからとの理由で叔父さんに婿入りしてもらったそう。

 

ただ、私は名字の違う他の家の箱回しに参加させてもらえたから、名字うんぬんの約束事はないのかもしれない。

 

地域の詳細までは言えないが、宮崎県とだけ。

 

(終)

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