祖父の最後の姿を見た金縛りの夜
これは、母の体験談。
母の祖父が病気で亡くなりそうだった時のこと。
もうお迎えが近い祖父のために、親戚一同が家に集まっていた。
結構大きな家だったが、田舎のこと親戚の数も半端ではないので、部屋を取られて母は納戸で寝ていたそう。
その夜も、座敷の方でまだ起きている親戚たちがざわざわしているのを聞きながら、納戸でうつらうつらしていた。
ふと気がつくと、そのざわめきが聞こえない。
祖父の容態はすでに秒読み段階だったので、「夜でも必ず数人が寝ずに起きているはずだから、こんなに静かなのはおかしい…」。
そう思った瞬間、金縛りに遭った。
初めての体験に、「まあそのうち解けるだろう」とゆったり構えていた母だったが、その時に納戸の襖が開き、誰かが入って来た。
でも、おかしい。
辺りはずっと静まり返っている。
納戸に来るには軋みの酷い廊下を渡らないといけないのに、足音などまったく聞こえなかった。
そしてその誰かは、母の枕元に無言で立っている。
横になっていた母の視点からは、足と纏った浴衣の端しか見えない。
しかし母には、その足が入院している祖父のものだとわかった。
次の瞬間、金縛りが解け、同時にざわめきが聞こえ出し、見えていた足も消えた。
呆然と起き上がった母のもとに、今度はバタバタと廊下を鳴らしながら親戚が駆けつけ、「今、祖父が亡くなった」と連絡があったことを教えてくれた。
内孫だったが、特別可愛がられていたわけでもなく、7人兄弟の4番目という中途半端な母のところになぜ来たのかはわからないとか。
(終)