「今日ね、絶対に北枕で寝ないでよ」
これは、中2の時に体験した不可解な話。
ベッドが壊れて一週間だけ畳に布団を敷いて寝ることになった。
それから3日目ぐらいの夜のこと。
母から、「今日ね、絶対に北枕で寝ないでよ」と唐突に言われた。
なぜその日だけ?ということも気になったし、自分も出来ればそうしたかった。
だが、寝る前に充電をしながら長時間携帯を見ることが習慣でもあり楽しみになっていたので、コンセントの近くでないと寝られなかった。
そのため、どうしても北枕にしないとならなくて、母の忠告は気になっていたが、怖さより携帯が優先だった俺は北枕で寝ることにした。
布団は部屋の真ん中に敷いた。
仰向けになって寝ていたが、3時ぐらいに急に、首に圧迫感を感じて目が覚めた。
しかし体は動かず、部屋は暗いため、何が起きているのかわからない。
息がしづらくなり、いよいよ「ヤバい、死にそう」と思った時だった。
突然、威嚇する猫の声がした。
たぶん飼っている黒猫の声だと思う。
直後、首の圧迫感が消えた。
そして、「あんたらも間違える時はある。気をつけて」という男性の声が聞こえた後、動けるようになった。
部屋の明かりをつけると、黒猫が元気よく擦り寄ってきて、とても安心したのを覚えている。
それから5日ぐらい経った頃、出かける時に喪服の行列を見かけた。
友人曰く、数日前に近所の男性が自殺したとのことだった。
一般的にご遺体を寝かせる時は、北に頭を向けて、仰向けで寝かせるという。
もしかするとあの日、俺は何かに『死んだ人間』だと間違われたのかもしれない。
あれが現実だったのかはわからないが、それまでは死んだら消えるだけと思っていたが、実際はどうなんだろう。
さらに言えば、もっと気になっていることがある。
どうして母は、あの日だけ北枕にするなと言ったんだろうか。
ちなみに、その後は決して北枕で寝ないようにしている。
(終)