肉人の肉を食べてしまったのかも
たぶん私は小さい頃に『肉人』に会ったことがある。
悪いことをすると、反省部屋という母屋から離れた納戸によく閉じ込められていた。
今考えると、放置時間が一晩中や半日から丸一日と長かった。
そこは暗くて狭くて、お腹が空いて寂しくて泣いていると、肌色のモヤっとした何かが、顔は無いのにこちらをじっと見ているのがわかった。
その時も同じような状況で、いつもより酷くお腹が空いてたまらなかった。
すると、モヤっとしたものがこちらにゆらゆらと漂ってきたので、お腹が空いているあまりに、私は口を開けてパクっとしてしまった…。
いや、それを差し出されたのかもしれない。
モヤなのに、口の中でとろけて腹の底から力がみなぎったようなとても特別な感覚だったので、その時の幸福感はよく覚えている。
今の私は40代後半だが、見た目がちょっと普通の人とは違う。
それというのも、20代半ばから容姿が全く衰えていない。
初めのうちは若く見られるのが嬉しかったが、今では気持ち悪いとさえ思うようになってきた。
実年齢を言う機会があると、必ずギョッと驚かれる。
若いことに対する賞賛ではなく、明らかに”おかしい”と思っている様子で。
それが年々酷くなるのだからたまらない。
そんな時、ふとインターネット上で『肉人』というワードを見かけた。
なんでも、肉人の肉を口にすると永遠の若さを与えられる、と書いてあった。
私が子供の頃に見たモヤっとしたものは、確かに肉の塊のようだった。
もしかするとあの時、私は肉人の肉を食べてしまったのかもしれない。
(終)