あのーちょっと道を教えて欲しいんですけど

 

能面

 

「あのー、ちょっと道を教えて欲しいんですけど」

 

深夜0時頃、コンビニに入ろうと車から降りたところで声をかけられた。

 

後ろ髪が長い金髪の、白いシャツとジーンズで、微妙にヤンキーっぽい感じの若い男だ。

 

「いいですよ。どこに行くんですか?」

 

コンビニの中で聞けよとは思ったが、まあいいかと答えた。

 

「すみません。×××に行きたいんですけど」

 

「えっ?×××?」

 

「わかりますか?」

 

「あ、うん。わかるよ」

 

「ここからどのくらい時間かかります?」

 

「そうだなぁ、車で30分くらいかな」

 

「歩きなんですけど」

 

「えっ!歩いて行くの?2、3時間はかかると思うよ?」

 

「大丈夫です。行かなきゃいけないんで」

 

「そ、そうなんだ。じゃあ、この道路を北に真っすぐ行って…」

 

ひと通り×××までの行き方を説明すると、男は深々とお辞儀をするように頭を下げた。

 

「あっ!」

 

俺は思わず声が出た。

 

お辞儀した男の後頭部に、『逆さになった女の顔』があったからだ。

 

男が頭を上げるまでの僅かな時間だったが、上目遣いの白い女の顔が、男の後頭部にお面を被ったような形で張り付いていた。

 

「あ、気を付けてね」

 

そう言って、思わず出た声を誤魔化した。

 

男はこちらに背を向けて、道路を歩きだす。

 

その後頭部には、やっぱり女の顔はあった。

 

金髪の長い髪をした、白い無表情の女の顔がみるみる嫌な笑い顔になる。

 

見たらダメなやつだと思い、急いでコンビニに入った。

 

怖い。

 

飲み物とお菓子をレジに持っていくと、支払う時に手が凄く震えていることに気づいた。

 

店を出て、車に乗り、そしてエンジンをかけた時だった。

 

コンコン。

 

ビクッとなって叩かれた窓を見ると、さっきの男がいる。

 

心臓が飛び出るほど驚いた。

 

フーっと呼吸を整えてから少しだけ窓を開け、「何?」と聞くのが精一杯だった。

 

「あのー、途中まででも乗せてくれないですか?」

 

男はボソボソと言った。

 

冗談じゃない。

 

さっきのアレを見て乗せれるわけがない。

 

「いや、逆だから。悪いけど」

 

絞り出すように言ったと思う。

 

断ると、男は「そうですか」と言って歩き去っていった。

 

もう男の後ろ姿を見る勇気はなかった。

 

ちなみに男が行きたがっていた×××は、地元で有名な心霊スポットだ。

 

そこは山の中、それも夜中に一人で歩いて行くような所ではない。

 

何だかわからないが、男が行きたいのか、女に操られているのか。

 

ひょっとして私も誘われたのかと思うと心底ゾッとする。

 

(終)

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