印刷物に写り続ける影の正体
デザイナーやってるんだけど、
ある時、納品されたチラシに
変な影が印刷されていた。
ぼんやりと暗くなってる部分が
大きく出ていて、
印刷会社に文句を言った。
版も見せてもらったんだけど、
版には特にそんな影は無い。
まぁ印刷機の詳しい所までは
分からないから、
とりあえず刷り直してもらう
って事になった。
だけど、待てども待てども
上がってこない。
印刷会社に連絡しても、
印刷機の調子が悪いの一点張り。
クライアントへの納期も押して、
どうしようと思ってたら、
印刷会社から連絡があった。
印刷機がどうやっても
ちゃんと動かないから、
今回の仕事は他に回して欲しい
とのことだった。
結局、クライアントの指定した
納期には間に合わず、
代理店からこっぴどく怒られた。
印刷会社には頭にきたが、
その印刷会社は今まで凄く
いい仕事をしてくれる所だったのに。
どうしたんだろうという
心配があったので、
仲のいい営業を飲みに誘い、
詳しく事情を聞くことにした。
その夜、
居酒屋で乾杯の後、
営業はチラシを2枚、
オレに差し出した。
2枚ともオレが作ったチラシだが、
1枚は最初の影が写ったチラシ、
2枚目はもっと濃い。
「ここだけの話にしてね」
そう、念押しして、
営業の人は話してくれた。
2枚のチラシのうち、
1枚目は最初に納品されたもの。
2枚目は次に刷り直したものだという。
「あらあら、2枚目のがひどいじゃん」
「○○さん、よく見てよね。
なんか見えない?」
よーく見ると・・・
人の顔?
「そう、人の顔。見覚えない?」
「え、ちょっとわかんない。
何コレ?」
「前に一度会った事あるでしょ。
職人の人。Mさん」
「あ、あのオジサン?」
「あの人ね、先月亡くなったの。
印刷機に腕巻き込まれて」
出血多量だったそうだ。
印刷機はローラーを取り替えて
再稼動することになったが、
それから調子は良くなかったという。
「最初はね、1枚目みたいな
感じだったんですよ。
○○さんとこだけじゃなくてね。
この印刷機を通したもの全部。
メーカーに見てもらったけど
直んないの」
そうするうちに社内では、
そのMさんの幽霊じゃないか、
という噂が立ち始めたそうだ。
「んなアホな、
って思うじゃないですか。
でもね、○○さんにダメ出しされて
刷り直したコレ見て、
オレも確信したね。
こんなに濃く出たの始めてだったし。
オレ、鳥肌立っちゃった」
確かに、鳥肌ものだった。
まるで、感熱紙の上に
中途半端に熱いものを
乗せてしまったような感じで
男の顔がぼんやりと浮かんでいた。
「・・・これからどうするの?」
「祈祷師を呼んで御祓い
してもらうことになってる。
それでダメなら新しいの買わなきゃ。
だから、仕事しばらく受けらんない。
申し訳ないんだけど・・・」
それから、御祓いをしてもらった
印刷会社は復活したに見えたが、
社内は相当ゴタゴタしたらしく。
辞めてしまう人が続出し、
オレもそこには仕事を頼まなくなった。
(終)