ある走り屋に起った怪事
会社ではすっかり、
怪談話を聞くのが好きなやつ、
で定着してしまった俺。
今回、新しく入ってきた、
22歳の期間工のEから
聞けた話を紹介する。
彼は、
いわゆる走り屋だった。
その夜も、
自慢のスカイラインを
飛ばしながら、
赤城山へ登ったわけだが、
平日の夜のせいもあるのか
他に車は無く、
今日は心置きなく走れると思い、
峠を攻め始めた。
そして、2回目の下りで
怪事は起こった。
ドリフトのタイミングがズレ、
カーブを曲がり切れなかったEは、
思い切り、尻をガードレールで
擦ってしまったという。
やってしまったと思った彼は、
その場でブレーキを踏んで、
道路の真ん中に
急停車をしたのだが・・・。
フロントガラスに何かがゴトゴトっと
転がり落ちてきた。
転がる塊はボンネットの先で
一度バウンドして、
ヘッドライトの照らす路面に、
その姿を現した。
子供のようだったという。
大人にしては小さいが、
間違いなく人だった。
そして何より、
そいつの頭の上に
黒々とした髪の毛がある以外は、
全身が真っ白。
もしかすると、
服を着ていなかった
かも知れないという。
一瞬、
人を撥ねたのかと思ったが、
スピードは出していたにしても、
路面に人は見えなかった。
何より、こんな時間に、
山の中に子供が一人で
いる事自体がおかしい。
唖然として目の前の光景に
見入っていると、
その真っ白な子供は、
四つん這いになって
立ち上がった。
そして、
フロントガラス越しにEを見て、
満面の笑みを浮かべ、
四つん這いのまま
ガードレールを飛び越えて、
闇に消えていったという。
アレが何だったのか
全く分からないが、
明るい場所で車を見ても、
ボンネットにアレがバウンドしたらしい
凹みがあったものの、
フロントは無傷。
アレは上に乗っていたとしか
考えられない。
その後、修理から戻ってきた
スカイラインは、
すぐに同じような自爆事故で
廃車になり、
次に乗ったシルビアも、
すぐにお釈迦にしてしまったそうだ。
あの真っ白いやつのせいで
不幸になったというEだが、
申し訳ないが・・・
彼の走り屋としてのテクニックが
お粗末だったのではないかと、
内心思えてならない。
そんな彼は現在、
原チャで仕事に来ているのだとか。
(終)