磨りガラス越しに見える何者かの存在 2/2

磨りガラスドア

 

それが何度も繰り返され、

 

夢なのか現実なのか

区別も付かないまま、

 

とうとうドアは全開になった。

 

居る!

 

もう見える。

 

部屋の中に入らず、

 

ジッと俺のことを見ているように

立ち尽くしている女が。

 

くすんだオレンジ色のロングコート。

 

目深に立てた襟のせいで、

顔が見えない。

 

何故か、

女の全身はまるで、

 

豪雨の中を歩いて来たかのように

びしょ濡れだ。

 

廊下に水が滴っている。

 

その水滴は、

玄関から続いているようだった。

 

玄関の鍵は掛かっている。

 

なのに、どうして玄関から

水滴が続いているのか?

 

恐ろしい考えに辿り着く前に、

目が覚めた。

 

女は居ない。

 

ドアも閉まっている。

 

でも、

身体がまだ動かない。

 

気付いたら部屋だ。

 

また俺は寝ている。

 

女が居る。

 

大声を上げたかった。

 

でも声は出せない。

 

恐ろしい事が起きていた。

 

女が、ほんの少し、

 

部屋の中に入って来ていて

立ち尽くしていたのだ。

 

ジッと動かない。

 

垂れている水滴も、

部屋の中まで来ている。

 

覚悟した。

 

おそらく、

 

夢と現実を繰り返しながら、

女は近寄って来るのだろう。

 

俺のそばまで。

 

推測は当たり、

徐々に女は近付いて来ていた。

 

動くのは、

身体から垂れる水滴ばかり。

 

手足も一切動かないのに、

 

夢と現実を行き来しながら、

女は近付いて来る。

 

俺の精神は発狂寸前だった。

 

目が覚めればドアは閉じていて、

誰も居ない。

 

気が付けば、

ドアは開いて女が居る。

 

それの繰り返し。

 

しかし、

無限の繰り返しではなさそうだ。

 

何故なら、

近付いて来ているからだ。

 

俺のそばに。

 

そしてとうとう、

女は俺のベッドの側まで来ていた。

 

俺を見下ろしているのだろうが、

顔がよく見えない。

 

呼吸をしているのかすら分からない。

 

俺の精神はその時、

何故か落ち着いていた。

 

極限に迫った状態がなせる、

精神の自己防衛本能だと思う。

 

(好きなようにしろよ・・・と)

 

変に覚悟を決めていた俺は、

何が起きても怖くなかった。

 

「さぁ殺せ」

 

くらいの勢いだったと思う。

 

女の顔は見えない。

 

しかし、

俺を見つめている気がする。

 

滴る水滴。

 

静かな衝撃が俺を襲った。

 

今の状況が夢なのか現実なのか

判断出来ない俺にとって、

 

もうどうでもいい衝撃だった。

 

目が覚めた。

 

部屋の明かりは「消えて」いた。

 

Tシャツも「着て」いた。

 

・・・

 

・・・・・・

 

全てが夢だったのか?

 

・・・

 

・・・

 

・・・・・・!!

 

身体も動く!

 

急いで上半身を起こした。

 

全身に疲れが襲ってきた。

 

大量の汗が噴き出す。

 

状況を認識するまで、

息を止めていた自分に気付き、

 

むせ返しながら酸素を貪った。

 

徐々に呼吸も落ち着いてくる。

 

部屋の照明を「また」点け、

ドアを見る。

 

やっぱり開いていない。

 

「夢だよ。・・・夢」

 

現実をたっぷりと味わうように、

わざと大きめの声で言った。

 

汗で濡れたTシャツを

「再び」脱ぎ捨て、

 

ベッドの下に放る。

 

ベチャッという音と共に、

床に張り付いた。

 

深呼吸をして、

 

さぁ、寝るかと、

心を安らかにして。

 

『・・・うふふ』

 

瞬時にして走る、

背筋の悪寒。

 

誰だ・・・

 

俺の頭の上で、

くぐもった笑い方をするのは誰だ?

 

天井を見上げた俺は、

 

おそらく一生涯忘れることの出来ない、

女の目と遭遇する。

 

あのロングコートの女は、

まだ居たのだ。

 

天井に膝を抱えた体勢で張り付き、

俺をずっと見下ろしていたのだ。

 

凍りついた。

 

全てが終わった・・・

 

そう思った時、

確かに女の口は耳端まで裂けた。

 

笑ったのだ。

 

そして、

膝を抱えていた両手を広げ、

 

全身を大の字に開いて、

俺の上に落ちて来た。

 

早朝、目覚めの時。

 

冷えた空気が

窓の隙間から流れ込み、

 

そろそろ秋を迎えると

感じさせる温度。

 

降ってきた女に

精神が耐え切れず、

 

気を失ったらしい。

 

しかし、

何も起きていなかったようだ。

 

ドアは閉まっているし、

照明も寝る前に消したままだ。

 

汗で濡れたTシャツだけは

寝ている間に脱いだのだろう、

 

床に放ってある。

 

何が何だか分からない俺は、

 

混乱しながらも

今の時間を時計で確認し、

 

ゆっくりと起こした上半身を捻りながら、

異常がないことを確認する。

 

たっぷりと2分は見回した後、

安堵のため息をついた。

 

何だったんだ、一体・・・

 

何もかもが分からないことだらけ。

 

それでも、

朝を迎えることが出来た。

 

夢として割り切った方がいいんだろうと、

本能は伝えていた。

 

そして、

カラカラに乾いた喉を潤すため、

 

ベッドの中から出ようと

布団を掴んだ時だった。

 

初めて大声で叫んだ。

 

何故なら・・・

 

布団の上に両手両足を広げた形の、

人型の「くぼみ」が出来ていたからだ。

 

(終)

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