母娘の二人が温泉宿で見てしまったもの 1/2

温泉

 

母と娘が旅行に行った。

 

娘はもうすぐ嫁ぐ身で、

最後の母娘水入らず。

 

ありきたりの温泉宿で、

特徴は海に面した・・・

 

ただそれだけ。

 

部屋に通されると、

やる事がない。

 

駅から続く温泉街の土産物屋は

大体覗いて来たし、

 

夕食までにはまだ

時間があった。

 

そこで二人はお風呂に

行く事にした。

 

女中「この先の廊下を

行くとあります。

 

今でしたら丁度夕日が

綺麗ですよ」

 

女中さんはそう言って、

忙しそうに戻って行った。

 

言われた通りに進むと、

一本の長い廊下に出た。

 

左右には、バーや土産物屋が

並んでいた。

 

そこを通り過ぎて行くと、

廊下は右に曲がっていた。

 

その正面には、

男湯と女湯の暖簾。

 

中から音は聞こえない。

 

二人で満喫出来そうだ。

 

支度を済ませ

浴場に入ってみると、

 

案の定、誰もいない。

 

「うわー、素敵ねぇ」

 

娘は感嘆の声を上げた。

 

正面は全面開口の窓で、

窓に沿って長方形の湯船。

 

その窓の外には、

夕日に光る一面の海。

 

二人は早速、

湯船に入った。

 

娘は湯船の右奥が仕切られて

いることに気付いた。

 

1メートル四方程の

小さなもの。

 

手を入れてみると、

 

飛び上がるほどの

熱い湯だった。

 

「きっと、足し湯用なのね」

 

母の言葉で、

娘は途端に興味を失った。

 

風呂は全くもって

素晴らしいものだった。

 

湯加減、見晴らし、

 

なにより、

二人きりの解放感。

 

窓と浴槽の境目には、

 

ちょうど肘を掛けるくらいの

幅があった。

 

母は右に、娘は左に。

 

二人並んで他愛もない

話をしていた。

 

ゆっくりと優しい時間が

過ぎてゆく。

 

その時、

母は突然悪寒を感じた。

 

自分の右の方から、

 

冷たいモノが流れて来るのを

感じたのだ。

 

普通ではない・・・

なぜかそう直感した。

 

あの熱い湯船の方から、

 

冷たい水が流れてくるなど

ありえない。

 

それに、

 

視線の端に何かがチラついて

いる気がしてならない。

 

急に恐怖感が沸いてきた。

 

それとなく、

娘の方を見てみる。

 

母は血の気が引く思いがした。

 

娘の表情・・・

 

これまでに見た事のない表情。

 

しかも、視線は自分の

隣を見ている。

 

口は何かを言おうと

パクパク動いてるが、

 

声は出ない様子。

 

母は、意を決して

振り返って見た。

 

確かに誰もいなかったはず・・・。

 

また、後から誰も入って

来てはいないはず・・・。

 

が、自分の右隣には

見知らぬ女がいた。

 

しかも、

 

自分達と同じ姿勢で、

肘をついて外を見ている。

 

長い髪が邪魔して、

表情までは分からない。

 

何か、鼻歌のようなものを

呟きながら外を見ている。

 

「おか・・あさん・・・、

その人・・・」

 

娘はようやく声を

絞り出した。

 

「ダメ!」

 

母は自分にも言い聞かすように、

声を上げた。

 

母の声に娘はハッとして

口を押さえた。

 

そう、

他の客かも知れない。

 

そうだとしたら、

 

あんな事を言うのは

とても失礼な事だ。

 

だけど・・・

 

誰かが入って来たなら

気付くはず。

 

ましてや、

 

自分達のすぐ近くに来たなら、

尚更だ。

 

やっぱりおかしい。

 

そう思って母の方を見ると、

さっきの女は居なくなっていた。

 

しかし、

母に視線を合わすと、

 

今度は洗い場の方を

指差している。

 

そこには・・・

 

出入口に一番近い所で、

勢いよく水を被る、あの女。

 

何杯も、何杯も、何杯も、

水を被っている。

 

娘は鳥肌が立った。

 

正に、

鬼気迫る光景だった。

 

母の顔色も真っ青に

なっている。

 

「もう出ようよ」

 

小さな声で、

母に呟いた。

 

「だけど・・もしあれなら

失礼になるんじゃ」

 

母も気が動転している

ようだった。

 

「それに・・・」

 

母が続ける。

 

「私、あの人の後ろ、

恐くて通れない」

 

そう言う母は恐怖からなのか、

少し笑みを浮かべていた。

 

母のその一言で、

娘は気を失いそうになった。

 

自分も同じ、

恐くて通れない!

 

「じゃ・・どうするの?

助けを呼ぶ?」

 

「だから・・・

普通のお客さんだったら・・」

 

そう答える母にも

分かっていた。

 

あの女は異常だ。

 

あれだけ勢いよく

水を被っているのに、

 

水の音が聞こえてこない。

 

「怖いよ・・・

 

どうするの・・・ねぇ、

お母さん・・・」

 

娘は半泣きになっていた。

 

「とりあえずここで

知らんぷりしときましょ」

 

母はそう言い、

また外を見た。

 

私が動揺してたんじゃ・・・

自分に言い聞かせながら。

 

不思議だ、

 

さっきは水の音なんて何一つ

聞こえやしなかったのに、

 

背後からはザバーッザバーッと

聞こえてくる。

 

娘は気付いてるのだろうか?

 

問うてみるのも恐ろしく、

身を強ばらせるばかり。

 

その時、突然に

水を被る音が止んだ。

 

娘にも聞こえていたようだ。

 

止んだ瞬間に

顔をこちらに向けて、

 

自分を呼んでいる。

 

娘は泣いていた。

 

だけど、

 

お互いに顔を見合わせる

ばかりで、

 

振り返る勇気がない。

 

ただただ出て行く事を

望むばかり。

 

そのまましばらくの

時間が過ぎた。

 

「出て行ったみたい」

 

母は娘の方に視線を移した。

 

(続く)母娘の二人が温泉宿で見てしまったもの 2/2へ

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