同い年の従兄弟と山で遭った恐怖 1/2

山ヒル

 

もう20年以上も昔になる。

 

当時、小学校低学年だった俺は、家族で緑豊かな田舎に盆帰りしていた。

 

久しぶりに会う同い年の従兄弟と、虫網片手にそこら中の虫を捕って楽しんでいた。

 

都会では感じられない開放感。

 

いつしか二人で、じいちゃん家の裏にある山に足を向けた。

 

「大物がいるかも知れないね」

 

「網に入りきらなかったらどうしよう」

 

突然変異でもない限り、そんな虫はなかなか有り得ないが、山の中はそんな期待をも抱いてしまうほど豊穣(ほうじょう)な命が溢れていた。

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怪物と化した従兄弟

しばらく二人で駆け回っていたが、急に従兄弟が立ち止まった。

 

「ごめん、ウンコしたい」

 

なぜ謝るのか分からないが、従兄弟は申し訳なさそうだ。

 

「家に帰る?」

 

「ううん、我慢出来ない」

 

従兄弟は少し離れた草藪にしゃがみ込み、ズボンを下ろし始めた。

 

響きだけで水分量を想像出来る音に背を向け、俺は半ズボンのポケットをまさぐった。

 

育ちの良い俺は、きちんとポケットティッシュを持っていたが、それだけで足りるかどうか。

 

そんな事を考えていたら、いきなり背後でこの世のものとは思えない絶叫が上がった。

 

「どうした!?」

 

草をかき分けると、ズボンを下ろしたままの中腰の従兄弟が凄まじい表情で俺を見ている。

 

その従兄弟の手足に、何かブヨブヨした赤っぽいものがいくつも張り付いている。

 

その正体は『山ヒル』だ。

 

田舎では珍しくもない。

 

だが、都会者には未知の小生物である。

 

もちろん、小学生の俺や従兄弟にそんな知識は無かったし、どうすればいいか分からない。

 

「は、早く拭けよ!」

 

俺は恐々とポケットティッシュを従兄弟に差し出すと、従兄弟はそれをまとめて引っ張り出し、山ヒルではなく自分の尻の割れ目を一拭き二拭きすると、慌てて半ズボンとパンツを脱いだ。

 

赤黒い山ヒルは従兄弟の足首から腰の辺りまで、斑模様のようにあちこち張り付いている。

 

従兄弟は無我夢中で山ヒルを払おうとしたが、意外に張り付く力が強く、なかなか落ちない。

 

そして、いくつもの血の筋が従兄弟の下半身を染め、従兄弟そのものが未知の怪生物に見えた。

 

「た、助けてよ~!」

 

パニックになって泣き叫び、下半身丸出しでこっちに向かって来る従兄弟を見て、凄まじい恐怖を覚えた。

 

悲鳴を上げながら、俺は怪物と化した従兄弟から逃れるように山道を下り、じいちゃんの家へ向かった。

 

途中、何度か背後を振り返ったら、山ヒルをブラブラさせながら下半身丸出しで従兄弟は追いかけて来る。

 

その時に頭の中にあったのは、山ヒルと一体化した従兄弟が俺を山ヒル人間に変える妄想だった。

 

「ママー!パパー!!」

 

俺は半泣きになりながら玄関に飛び込み、親を呼びながらサンダルを脱ごうとして気付いた。

 

俺の足にも沢山の山ヒルが張り付いている。

 

俺も従兄弟みたいに山ヒル人間にされてしまうのか!?

 

俺は泣きじゃくった。

 

泣きじゃくりながらサンダルを脱ぎ捨て、大人を捜して廊下を駆けた。

 

すると、後ろの方で女性の悲鳴が聞こえた。

 

俺の母親の声だ。

 

俺はUターンし、母親に合流しようとして悲鳴を上げた。

 

廊下には点々と小さな足跡が続いている。

 

ただの足跡ではない。

 

血の色をした足跡だ。

 

何かの怪物に追いかけられている!?

 

俺の背後に姿の見えない何者かが、血の足跡を残しながら迫って来ている。

 

(続く)同い年の従兄弟と山で遭った恐怖 2/2へ

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