恋人からの贈り物は気をつけろ 2/4
家に着くと、
Sさんが厚いコートを脱いだ。
コートの中には思った通り、
着物を着ていたのだが、
巫女さんとか
そういう感じじゃなくて、
変な目玉というか、
丸とかぐるぐるした模様がある着物で、
見慣れない感じの着物だった。
(袖とかえりに{}を繋いだ
みたいなものがあった)
本格的だなぁ、
この人ならなんとかしてくれるかも、
と思った。
説明は歩きながらしたし、
Sさんが、
「上ですよね、
案内してください」
というので、
ハラハラしながら
自分の部屋に案内した。
(ゴンゴンした音は止んでいた)
部屋の中は生暖かく嫌な感じで、
机の下には相変わらず、
釘ダンゴになった藁人形がある。
昨日掃除したばっかりだったから
部屋は綺麗で、
Sさんは机の前に座って、
和紙みたいなものに
藁人形を乗せて机に上げた。
「あ、あとマフラーが・・・」
と床に落としていたマフラーを
指差そうとしたのだが、
マフラーが部屋に見当たらない。
探してもどこにもない。
Sさんは、
「とりあえずマフラーはいいので
水を持って来てください」
と言ったので、
首を傾げながらも、
ヤカンに水を入れ部屋に戻ると、
Sさんが机の前であぐらをかきながら、
藁人形を睨んでいた。
変な呪文とか祈祷とかするんじゃ
ないかとドキドキしたが、
Sさんは座ったまま動かない。
10分くらいしてようやくSさんが
ふーっと息を吐いたので、
「あ、みず・・・
ここ置いといていい?」
と聞くと、
「貸してください」
Sさんはヤカンを持って、
もう片方の手に小さなビンを持って、
ビンを握りながら藁人形に
少し水をかけた。
(ビンはSさんが持って来た)
俺は斜め後ろに正座して
それを見ていたのだが、
改めて見ると、
藁人形の胴体が
不自然に膨らんでいて、
Sさんはそれに
水をかけてるようだった。
その後、
着物の中から変な彫刻がしてある
棒みたいなものを出して、
小さいビンの中に入っていた
水みたいなものを棒で跳ねさせて、
藁人形にかけた。
それから、
指で一本一本、
藁人形の釘を引き抜いて
いったのだが、
最後に残った一本だけが、
どうしても抜けないようだった。
Sさんが「抜けますか?」
と言うので、
気持ち悪かったが
釘を引き抜こうとしてみたけど、
藁にしては固い何かに
刺さってるみたいだった。
結局、
Sさんにカッターを貸して、
藁人形の腹を開いてもらったら、
釘の刺さった5センチ四方くらいの
小さな木箱が出てきた。
異様だったのは、
木箱が長い髪の毛で
ぐるぐる巻きにされていた事。
Sさんはそれもカッターで切って
開けようとしているので、
さすがにびびって・・・
「大丈夫なんですか?」
と聞いてみたのだが、
Sさんは軽く「平気平気」
と言いながら髪を切り、
箱を開けた途端に、
異様な匂いがしてきた。
箱の中には、
何か白いティッシュのような
ものが入っていた。
Sさんは持参した箸みたいなもので
器用に摘み出すと、
血のようなものがこびり付いた
ティッシュだった。
生臭い、嫌な匂いがする。
「非常に言い難いのですが、
これはたぶん経血だと思います」
Sさんにそう言われて、
俺は吐き気がした。
箱の中からは次々と、
マニキュアが塗られたまま
爪切りで切られたらしい爪と、
血(経血)に絡まってガビガビになった
髪の毛の固まりが出てきた。
吐き気のする匂いで
クラクラしていると、
Sさんはそれらのものを
さっきの小さいビンに入れて、
そっと箱を閉じた。
Sさんは、
「これで多分、
大丈夫だと思います。
ただ、
今日から一週間くらいは、
生臭物・・・
お肉とか魚とか、
そういうのは食べないで、
苦手でなければ日本酒を
たくさん飲んでください。
ちょっと一休みしたら
説明しますね」
Sさんがにこにこと笑顔を
作りながら言うので、
俺は安心したのと
気持ち悪いのとで、
早く部屋を出たくて
堪らなくなって、
居間に下りた。
Sさんも、切った藁人形や釘を
ビニール袋に入れて、
すぐに下りてきた。
水を飲んで一息ついたら、
だいぶ気分は楽になった。
Sさんが大まかな説明を
してくれるというので、
ビニール袋に入ったものは、
出来るだけ見ないようにしながら
話を聞く事にした。