小さな診療所での宿直バイトで 1/2
数年前、
大学生だった俺は、
先輩の紹介で小さな診療所の
宿直バイトをしていた。
業務は見回り一回と電話番。
あとは何をしても自由という、
夢のようなバイトだった。
診療所は三階建てで、
一階に受付・待合室・診察室兼処置室、
二階に事務室・会議室・炊事場、
そして三階に宿直室があった。
宿直室は和室で、
襖がドア代わり。
階段は一つ。
小さいとは言っても、
患者のカルテやなんかは
扱っているわけで、
診療所は警備会社のシステムで
きっちりと警備されていた。
宿直の大まかな流れは
以下の通り。
夜9時に診療所に着き、
裏玄関の外から警備システムの
警備モードを解除する。
(表玄関は7時半には
完全に施錠される)
入って見回りをして、
三階の宿直室に入る。
宿直室にも警備会社の
管理パネルがあるので、
入ったら再び警備モードにする。
警備のセンサーは、
一階二階はほぼ隈なく
網羅しているが、
宿直室には無いため、
宿直室内では自由に動ける。
管理パネルにはランプが点いており、
異常がない時は緑が点灯している。
センサーが何かを感知すると
ランプが赤に変わり、
警備会社と責任者である所長に
連絡がいくことになっている。
ドアや窓が開けられると警報が鳴る。
部屋に着いて
警備モードに切り替えれば、
あとは電話がない限り、
何をしてもいい。
電話も夜中にかかってくることなんて
一年に一回あるかないかくらいだった。
だからいつもテレビ見たり勉強したり、
好き勝手に過ごしていた。
ある日の夜。
いつものように見回りをして部屋に入って、
警備モードを点けてまったりしていた。
ドラマを見て、
コンビニで買ってきた
弁当を食べて、
本を読みながら肘を枕に
うつらうつらしていた。
テレビはブロードキャスターが終わって、
チューボーですよのフラッシュCMが
入ったところだった。
何気なく目をやった管理パネルを見て、
目を疑った。
ランプが赤い。
今までランプが赤かったことなんて
一度もない。
え?なんで?
と思ってパネルを見ていると、
赤が消えて緑が点灯した。
普通に考えて、
診療所の中に人がいるはずがない。
所長や医師が急用で来所するなら、
まず裏玄関の外から警備のシステムを
解除するはずだ。
また外部からの侵入者なら、
窓なりドアなりが開いた瞬間に、
警報が鳴るはずだ。
故障だ。
俺はそう思うことにした。
大体、もし本当に
赤ランプが点いたなら、
所長と警備会社に連絡がいって、
この宿直室に電話がかかって
来ないとおかしい。
それがないということは、
故障だということだ。
そう思いながらも、
俺はパネルから目を離せずにいた。
緑が心強く点灯している。
しかし次の瞬間、
俺は再び凍りついた。
また、赤が点灯した。
今度は消えない。
誰かが・・・
何かが・・・
診療所内にいる・・・。
俺は、
わけの分からないものが次第に、
この宿直室に向かっているような
妄想に取り憑かれた。
慌てて携帯を探して、
所長に電話をした。
数コールで所長が出た。
所「どうした?」
俺「ランプが!
赤ランプが点いています!」
所「本当か?
こっちには何も連絡ないぞ」
俺「だけど今も点いていて、
さっきはすぐ消えたんですけど、
今回はずっと点いています!」
所「分かった。
警備会社に確認するから、
しばらく待機していてくれ。
また連絡する」
所長の声を聞いて少し安心したが、
相変わらず赤が点灯していて、
恐怖心は拭い去れない。
2分ほどして、
所長から折り返しの電話があった。
所「警備会社に確認したが、
異常は報告されていないそうだ」
俺「そんな!
だって現に赤ランプが
点灯しているんですよ!
どうしたらいいですか?」
所「分かった。
故障なら故障で見てもらわなきゃ
いけないし、
今から向かうから待ってろ」
何という頼りになる所長だ。
俺は感激した。
赤ランプはそのままだが、
特に物音が聞こえるとか
気配を感じるということもないので、
俺は少しずつ安心してきた。
赤ランプが点いただけで
所長を呼び出していたら、
バイトの意味ねえな・・・
とか思って自嘲してた。
しばらくすると車の音が聞こえて、
診療所の下を歩く足音が聞こえてきた。
三階の窓からは、表玄関と
裏玄関そのものは見えないが、
表から裏に通じる壁際の道が
見下ろせるようになっている。
見ると、
電気を煌々と点けながら、
所長が裏玄関に向かっている。
見えなくなるまで
所長を目で追ってから数秒後、
ピーッという音と共に、
警備モードが解除された。
俺は早く所長と合流したい一心で、
襖を開けて廊下へ出た。
廊下へ出た瞬間、
俺は違和感を感じた。