小さな診療所での宿直バイトで 2/2

 

生臭いのだ。

 

何とも言えない嫌な臭いが

たちこめていた。

 

また恐怖が頭をもたげてきたが、

 

さっき確かにこちらへ向かう

所長を見たし、

 

一階に所長が来ているのは

間違いないので、

 

俺は廊下の電気を点けて、

階段へ向かった。

 

診療所の階段は

各階に踊り場があって、

 

三階から見下ろすと、

 

一階の一番下まで見える

構造になっている。

 

階段の上まで来て、

一階を見降ろした。

 

一階はまだ電気が点いておらず、

 

俺が点けた三階の電気が、

一階を薄く暗く照らし出している。

 

生臭さが強くなった。

 

一階の電気のスイッチは、

裏玄関を入ってすぐのところにある。

 

所長はなんで電気を点けない?

早く電気を点けて姿を見せてくれ!

 

さらに生臭くなった時、

 

不意に一階の廊下の奥から

声のような音が聞こえてきた。

 

それは、

無理やり文字化すれば、

 

『ん゛ん゛~ん゛~~う゛う゛う゛~゛ん゛』

 

という感じで、

 

唄ともお経とも取れる

ような声だった。

 

ここにきて俺は確信した。

 

一階にいるのは所長じゃない。

 

頭が混乱して、

 

全身から冷たい汗が

噴き出してきた。

 

しかし、

一階から目が離せない。

 

生臭さがさらに強まり、

 

『ん゛ん゛~ん゛~』

 

という唄も大きくなってきた。

 

何かが確実に階段の方へ

向って来ている。

 

見たくない見たくない見たくない!

 

頭は必死に逃げろと

命令を出しているのに、

 

体が全く動かない。

 

ついに、

ソイツが姿を現した。

 

身長は2メートル近くありそうで、

全身が肌色というか白に近い。

 

毛がなく、

手足が異常に長く、

 

全身の関節を動かしながら、

踊るようにゆっくりと動いている。

 

ソイツは、

 

『ん゛~ん゛~~う゛う゛~』

 

と唄いながら階段の下まで来ると、

上り始めた。

 

こっちへ来る!

逃げなきゃいけない!

 

そう思うが、

体が動かない。

 

ソイツが一階から二階への階段の

半分くらいまで来た時、

 

宿直室に置いてあった

俺の携帯が鳴った。

 

俺は「まずい!」と思ったが、

遅かった。

 

ソイツは一瞬動きを止めた後、

 

体中の関節を動かして、

ぐるんと全身をこちらに向けた。

 

まともに目が合った。

 

濁った眼玉が目の中で

動いているのが分かった。

 

ソイツは口を大きく歪ませて、

 

『ヒェ~~ヒェ~~~』

 

と音を出した。

 

不気味に笑っているように見えた。

 

次の瞬間、

 

ソイツはこっちを見たまま、

凄い勢いで階段を上り始めた。

 

俺は、弾かれたように

動けるようになった。

 

とは言え、

逃げる場所などない。

 

俺は宿直室に飛び込み、

襖を閉めて押さえ付けた。

 

しばらくすると階段の方から

 

『ん゛~~ん゛~う゛~』

 

という唄が聞こえてきて、

生臭さが強烈になった。

 

来た!来た!来た!

 

俺は泣きながら、

襖を押さえ付ける。

 

頭がおかしくなりそうだった。

 

『ん゛~~ん゛~ん゛~~』

 

もう、襖の向こう側まで

ソイツは来ていた。

 

ドンッ!

 

襖の上の方に、

何かがぶつかった。

 

俺はソイツのつるつるの頭が

襖にぶつかっている様子が、

 

ありありと頭に浮かんだ。

 

ドンッ!

 

今度は俺の腰のあたり。

 

ソイツの膝だ。

 

「や、や、やめろー!!」

 

俺は、思い切り叫んだ。

 

泣き叫んだと言ってもいい。

 

すると、

ピタリと衝撃がなくなった。

 

あの唄も聞こえなくなった。

 

俺は腰を落として、

 

襖から目を離すことなく

後ずさった。

 

後ろの壁まで後ずさると、

壁を頼りに立ち上がった。

 

窓がある。

 

衝撃が止み、

唄も聞こえなくなったが、

 

ソイツが襖の真後ろにいるのを

確信していた。

 

生臭さは先ほどよりも、

さらに強烈になっているのだ。

 

俺は、ソイツが次の衝撃で

襖をぶち破るつもりだということが、

 

なぜかはっきりと分かった。

 

俺は襖を睨みつけながら、

後ろ手で窓を開けた。

 

バターーン!!

 

襖が破られる音とほぼ同時に、

俺は窓から身を躍らせた。

 

窓から下へ落ちる瞬間に

部屋の方を見ると、

 

俺の目と鼻の先に、

ソイツの大きく歪んだ口があった。

 

気がついた時は、

病院だった。

 

俺は両手足を骨折して、

頭蓋骨にもヒビが入って、

 

生死の境を彷徨っていたらしい。

 

家族は大層喜んでくれたが、

 

担当の看護師の態度が

おかしいことに俺は気づいた。

 

なんというか、

俺を怖がっているように見えた。

 

怪我が回復して転院する時、

俺はその看護師に聞いた。

 

すると、看護師は言った。

 

「だってあなた、

 

大怪我してうなされてる日が

続いていたっていうのに、

 

深夜になると目を開けて、

 

口を大きく歪ませながら

楽しそうに唄を歌うんだから。

 

『ん゛ん゛~ん゛~~う゛う゛う゛~ん゛』

 

って」

 

(終)

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