決して海を見てはいけない日 1/2

海

 

うちのばあちゃんの姉(おおばあ)

が亡くなったので、

 

一家揃って泊まりがけで、

通夜と葬式に行ってきた。

 

今生きている親族の中では、

おおばあが最年長というのと、

 

うちの一族は何故か女性権限が

強いということもあって、

 

葬式には結構遠縁の親戚も集まった。

 

親戚に自分と一つ違いのシュウちゃん

という男の子がいたんだけど、

 

親戚の中で一緒に遊べるような仲だったのは、

このシュウちゃんだけだった。

 

会えるとしたら、

実に15年振りぐらい。

 

でも通夜にはシュウちゃんの

親と姉だけが来ていて、

 

期待していたシュウちゃんの姿は

どこにも無かった。

 

この時ふと、

 

小学生の頃も同じように

親戚の葬式があって、

 

(確かおおばあの旦那さん)

 

葬式が終わってから、

 

シュウちゃんと一緒に遊んでいて、

怖い目に遭ったのを思い出した。

 

これは、その時のお話。

 

うちの父方の家系は

ちょっと変わっていて、

 

家督を長男ではなくて、

長女が継いでいるらしい。

 

※家督(かとく)

相続すべき家の跡目。また、跡目をつぐ者。あとつぎ。

 

父方の親族はおおばあもみんな

日本海側の地域にいるんだけど、

 

うちの親父は三男というのもあって、

 

地元では暮らさず、

大阪の方まで出てきていて、

 

そういった一族の風習とは無縁。

 

シュウちゃんの家もうちと同じように、

地元を離れた家みたいで神奈川在住。

 

夏休みは毎年、

 

お盆の少し前ぐらいから

おおばあの家に集まって、

 

法事だの地元の祭りに行ったりだの、

親族で揃って過ごす。

 

うちとかシュウちゃんの家なんかは、

 

他の親族と違って、

かなり遠方から来ることになるので、

 

おおばあの家で何泊かすることになる。

 

おおばあの本宅が海に近いから、

 

(道路を挟んで少し向こうに

海が見えている)

 

朝から夕方までシュウちゃんと海に

遊びに行っていた。

 

小学校2~3年の冬に、

おおばあの家で葬式があって、

 

その時もうちは泊まりがけで

通夜と葬式に出席。

 

シュウちゃんのところも同じように、

泊まりで来ていた。

 

元々俺は脳天気な人間なんだけど、

その頃は輪をかけて何も考えてなくて、

 

葬式云々よりもシュウちゃんと遊べる、

ということしか頭になかった。

 

朝に出発して、

おおばあの家に着いて、

 

ご飯を食べて、

しばらくしてから通夜。

 

このあたりは何かひたすら

退屈だったことしか覚えていない。

 

全然遊べないし。

 

泊まる時は離れが裏にあって、

そこに寝泊まりするんだけれど、

 

その時は他に来ていた親族が

ほとんど泊まるから、

 

離れが満室。

 

自分たちは本宅に泊まった。

 

晩飯が終わってから、

 

「何でこんな日に亡くなるかねえ」

 

とか親戚がボソっと

口にしたのを覚えている。

 

翌朝6時頃に起きたら、

 

おおばあとかばあちゃん、

他の親戚の人がバタバタしていて、

 

家の前に木で編んだ小さい籠

っぽいものをぶら下げて、

 

それに変な紙の短冊みたいなものを

取り付けたりしていた。

 

ドアや窓のあるところ全部に吊して、

紐一本でぶら下がっているから、

 

ついつい気になって

手で叩いて遊んでいると、

 

親父に思いっきり頭を殴られた。

 

そのうち雨戸を全部閉め始めて、

雨戸の無い台所などには、

 

大きな和紙みたいなものを

窓枠に画鋲で留めていた。

 

人が死んだ時の風習かなあ、

というのが最初の印象だった。

 

朝も早いうちから告別式が始まって、

途中はよく覚えてないけれど、

 

昼を少し過ぎた頃には、

ほとんど終わっていた。

 

薄情な子供かも知れないけれど、

 

「これ終わったら遊べる~」

 

ということしか頭になかったなあ。

 

途中、昼飯を食べたんだけれど、

みんなあまり喋らなかったのを覚えている。

 

何時頃か忘れたけれど、

 

結構早いうちに他の親戚たちは

車で帰っていき、

 

本宅にはうちの家族と

シュウちゃんの家族だけが残った。

 

夏みたいに親戚みんなで夜まで

賑やかな食事を想像してたんだけれど、

 

シュウちゃんとちょっと喋ってるだけで、

怒られたのが記憶に残っている。

 

家の中でシュウちゃんと遊んでいたら、

 

「静かにせえ!」

 

と怒られた。

 

夕方にいつも見ているテレビ番組が見たくて、

 

「テレビ見たい」

 

と言っても怒られた。

 

「とにかく静かにしとけえ」

 

と言われた。

 

今思えば、

 

親もおおばあもばあちゃんも、

喋っていなかった。

 

あまりにも暇だから

シュウちゃんと話して、

 

「海、見に行こう」

 

となった。

 

玄関で靴を履いていたら、

ばあちゃんが血相変えて走ってきて、

 

頭を叩かれると、

 

服を掴まれながら食堂の方まで

引っ張っていかれた。

 

食堂にシュウちゃんのお父さんがいて、

ばあちゃんと二人で、

 

「今日は絶対に出ちゃいかん」

「二階にいとき」

 

と真剣な顔をして言われた。

 

そのままほとんど喋ることなく、

シュウちゃんとオセロか何かして遊んでいた。

 

気が付いたら2階で寝かされた。

 

どれぐらい寝たのか分からないけれど、

寒くて起きたのを覚えている。

 

2階から1階に行く時、

魚臭さのあるニオイがした。

 

(釣場よりも少し変な潮臭さ)

 

時計を見に居間を覗いたら、

 

おおばあとかうちの親が

新聞を読んだりしていて、

 

誰も喋っていなかった。

 

その雰囲気が妙に気持ち悪くて、

トイレで用を足した後、

 

2階に戻ろうとしたら、

廊下でシュウちゃんと出くわした。

 

「・・・あんね、

夜、外に誰か来るんだって」

 

とシュウちゃん。

 

おおばあ達が今朝、

何かそれらしいことを口にしていたらしい。

 

それをシュウちゃんが聞いたようだ。

 

(続く)決して海を見てはいけない日 2/2

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