決して海を見てはいけない日 2/2

海

 

ちょっと確かめてみたいけれど、

2階も雨戸が閉まっていて外が見えない。

 

「便所の窓、開くんちゃうかな」

 

さっきトイレの小窓がすりガラスで、

雨戸が無かったのを思い出した。

 

便所は家の端で、

海側(道路側)に窓があるから、

 

二人で見に行こうとなった。

 

冬のトイレは半端なく寒いんだけれど、

 

窓の一つ向こうに何かがいるという

思い込みから、

 

秘密基地に篭るような奇妙な興奮と、

同時に背筋に来るような寒気を覚えた。

 

「ほんまにおるん?」

 

小声でシュウちゃんに話しかけ、

シュウちゃんもヒソヒソ声で、

 

「いるって、おばあが言ってたもん」

 

トイレの小窓は位置が高く、

小学生の自分の背丈では覗けない。

 

便器の給水パイプが通っているから、

そこに足を乗せて窓を覗く形になる。

 

まず自分が外を見ることになった。

 

音を立てないように静かに窓をずらして、

外を見た。

 

軒の下で、

木で編まれた籠が揺れている。

 

視界の端、道路から家まで、

何か長いものが伸びていた。

 

よく分からないけれど、

 

その長いもののこちら側の先端が、

少しずつこっちに向かって来ている。

 

10秒ほど見てから、

 

何か無性に恐ろしくなって、

身震いして窓を閉じた。

 

「誰かいた?」

 

「よく分からんけど、何かおった」

 

「僕も見る」

 

「何かこっちに来てるみたいやし、

逃げようや」

 

たぶん、

自分は半泣きだったと思う。

 

寒さと得体の知れない怖さで、

今すぐ大声で叫んで逃げたかった。

 

「な、戻ろ?」

 

トイレのドアを開けて、

シュウちゃんの手を引っ張った。

 

「僕も見る。ちょっとだけ。

ほんのちょっとだけだから!」

 

シュウちゃんが自分の手を振り切って戻り、

給水パイプに足を乗せた。

 

窓をずらして覗き込んだシュウちゃんは、

外を覗き込んだまま動かなかった。

 

「なあ、もうええやろ?戻ろうや」

 

「○○くん(自分)、これ、」

 

言いかけて・・・

途中で止まったシュウちゃんが、

 

外を覗き込んだまま「ヒッ、 ヒッ、」と、

引きつったような声を出した。

 

何がなんだか分からなくなって

オロオロしていると、

 

自分の後ろで物音がした。

 

「お前ら何してる!」

 

シュウちゃんのお父さんが、

物凄い形相で後ろに立っていた。

 

言い訳どころか一言も喋る前に、

 

自分はシュウちゃんのお父さんに

襟を掴まれ便所の外、

 

廊下に放り出された。

 

一呼吸置いて、

シュウちゃんも廊下に放り出された。

 

その後、トイレのドアが、

叩きつけられるように閉められた。

 

音を聞きつけたうちの親と、

おおばあが来た。

 

「どあほう!」

 

親父に張り手で殴られ、

おおばあが掴みかかって来た。

 

「○○(自分)、お前見たんかい?

見たんかい!?」

 

怒っていると思ったけれど、

おおばあは泣きそうな顔をしていた気がする。

 

何一つ分からないまま、

 

周りの大人達の剣幕に、

どんどん怖くなっていった。

 

「外、見たけど、

 

なんか暗くてよく分からんかったから、

すぐ見るのやめてん」

 

そう答えた自分に、

おおばあは、

 

「本当にか?

顔、見てないんか!?」

 

と怒鳴り、

泣きながら自分は頷いた。

 

そのやり取りの後ろで、

 

親父と後から来たばあちゃんが、

トイレの前に大きな荷物を置いて塞いだ。

 

シュウちゃんのお父さんが、

 

「シュウジ!お前は!?」

 

と肩を揺すった。

 

自分も心配でシュウちゃんの方を見た。

 

シュウちゃんは笑っていた。

 

「ヒッ、 ヒッ、」

 

としゃっくりのような声だけど、

 

顔は笑ってるような泣いてるような、

突っ張った表情。

 

「シュウジー!シュウジー!」

 

とお父さんが揺さぶったり

呼びかけたりしても、

 

反応は変わらなかった。

 

一瞬、みんなが言葉に詰まって、

 

薄暗い廊下で見たその光景は、

歯の根が合わないほど怖かった。

 

シュウちゃんは服を脱がされて、

奥の仏間の方に連れていかれた。

 

おおばあはどこかに電話をしている。

 

居間でシュウちゃんのお母さんと姉が

青ざめた顔をしていた。

 

電話から戻ってきたおおばあが、

 

「シュウジは夜が明けたらすぐに

『とう●●さん』とこに連れてくで!」

 

(●●は聞き取れず・・・)

 

と捲くし立て、

 

シュウちゃんの親はひたすら

頷いているだけだった。

 

自分はばあちゃんと親に腕を掴まれ、

2階に連れていかれた。

 

やっぱり服を脱がされて、

すぐに着替えさせられ、

 

敷いてあった布団の中に放り込まれた。

 

「今日はこの部屋から出たらいかんで」

 

そう言い残して出ていったばあちゃん。

 

閉められた襖の向こうから、

何か短いお経のようなものが聞こえた。

 

その日は、

親が付き添って一晩を過ごした。

 

明かりを消すのが怖くて、

 

布団を被ったまま、

親の足にしがみ付いて震えていた。

 

手足だけが異様に寒かった。

 

翌朝、

ばあちゃんが迎えに来て、

 

1階に降りた時には、

シュウちゃんはいなかった。

 

「シュウジは熱が出たから病院に行った」

 

とだけ聞かされた。

 

部屋を出る時に見たんだけれど、

 

昨日玄関や窓にぶら下げてあった

籠みたいなものが、

 

自分の寝ていた部屋の前にも

ぶら下げてあった。

 

朝飯を食べている時におおばあから、

 

「お前ら本当に馬鹿なことをしたよ」

 

みたいなことを言われた。

 

親は帰り支度を済ませていたみたいで、

ご飯を食べてすぐ帰ることになった。

 

おおばあ、ばあちゃんに謝るのが、

挨拶みたいな形で家を出た。

 

家に帰った日の夜、熱が出て、

次の日は学校を休んだ。

 

翌年以降、

 

自分はおおばあの家には

連れていってもらえなかった。

 

中学2年の夏に一度だけ

おおばあの家に行ったが、

 

その時も親戚が集まっていたけれど、

シュウちゃんの姿はなく、

 

「シュウジは塾の夏期講習が

休めなくてねえ」

 

と、シュウちゃんのお母さんが

言っていたのを覚えている。

 

でも今年9月のおおばあの葬式の時、

他の親戚が、

 

「シュウジくん、

やっぱり変になってしまったみたいよ」

 

と言ってたのを聞いた。

 

あの時にシュウちゃんが

何を見たのかは分からないし、

 

それに自分が何を見たのかも、

はっきり分かっていない。

 

親父にあの時の話を聞いたら、

 

「海を見たらあかん日があるんや」

 

としか言ってくれなかった。

 

(終)

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