金曜日の夜にバス停で待つ女 2/2

バス停

 

二度目。

 

その翌週の金曜日。

 

またもや帰宅が遅くなった孝史は、

 

先週の事を思い出しながら

車を走らせていた。

 

あぁ、この先のバス停で・・・

と思った時、

 

あの時の女の子がバス停に座っている。

 

間違いなくあの子だ。

 

孝史は迷う事なく、

車を止めて声をかけた。

 

孝史を待っていたらしい。

 

少しドライブをする事にして、

お互いの事を少し話した。

 

美奈は実家に住んでいて、

妹が一人いる。

 

家は自営業らしい。

 

おばあちゃんも一緒に住んでいる。

 

彼氏のような人はいたが、

曖昧なまま捨てられてしまった事。

 

(前回、雨の中で待っていたのは、

その男だったらしい)

 

そして、

当たり前のようにラブホに入った。

 

再び美奈の身体を堪能し、

また元のバス停に送る。

 

三度目。

 

また次の週の金曜日。

 

孝史は一度帰宅していたが、

 

美奈の事が気になって、

夜遅くに例のバス停に向かった。

 

当たり前のように美奈が座っている。

 

また声をかけ、

人気の無い所へドライブする事になった。

 

そして、車の中での行為。

 

終わると、また例のバス停へ。

 

こんな事が二ヶ月ほど続いた。

 

本来ならここまで続けば

付き合う話になりそうなものだが、

 

孝史にはいまいち、

踏み込めない部分があった。

 

美奈の陰の部分に、

どこか深入りするのが怖いような・・・

 

具体的には、

会う度に何か孝史の持ち物を欲しがる。

 

使っている100円ライターだったり、

有料道路の通行券だったり、

 

もう使っていないインクの切れた

ボールペンだったり・・・

 

価値があるとか無いとかではなく、

孝史の物というだけで満足そうなのだ。

 

それに、

孝史は今まで一度も避妊していない。

 

美奈はおとなしく従順なのだが、

避妊だけは頑なに拒む。

 

孝史は何か裏があるのでは、

と恐ろしくさえ思うようになっていた。

 

そんな事情もあって、

 

孝史はまだフルネームも住所も

連絡先も教えていなかった。

 

車のナンバーから調べれば

分かると言えばそうなのだが、

 

そればかりはどうしようもない。

 

そう思ってる矢先、

 

長期出張の話があがり、

三ヶ月ほど県外に出る事になった。

 

出発は次の木曜日。

 

美奈に伝える方法も無いし、

この際、縁を切ろうと思っていた。

 

バタバタと出張の準備をする中、

携帯電話が鳴った。

 

一つ年上の会社の先輩からだ。

 

「なぁ、誰か女紹介してくれよ」

 

単刀直入に言うと、

そんな内容だった。

 

強引でわがままな先輩の頼みに

困っている時、

 

美奈の事を思い出した。

 

自分が出張中に車を貸すから、

この時間帯にここを通るといいですよ、と。

 

そうして孝史は木曜日に、

予定通り出張に出かけた。

 

ここからは先輩の話。

 

言われた通り、

例のバス停に向かった。

 

その日は雨だったが、

傘もささずに女の子が座っていたらしい。

 

欲求不満の先輩は、

女の子に声をかけた。

 

簡単に乗り込んでくる彼女。

 

先輩は彼女が大人しく

無口な事をいい事に、

 

すぐにラブホへ連れ込んだ。

 

たっぷりと楽しんだ後の

帰りの車の中で、

 

彼女がこの車の持ち主について

執拗に知りたがる事を、

 

うっとおしく思えた。

 

もちろん、

 

持ち主について語るという事は、

自分の身元もばれる事に繋がる。

 

先輩は避妊しなかった事もあり、

一夜限りで逃げたかった。

 

適当にごまかしたり

嘘を教えたりしながら、

 

帰路についていた。

 

途中、煙草を買うために、

コンビニへ寄る事になった。

 

彼女は助手席に乗ったまま。

 

ところが、

 

煙草を買って戻ってくると、

彼女がいない。

 

例のバス停まで近かった事もあり、

歩いて帰れる距離だったんだろう。

 

と、楽観的に考えた。

 

なにせ、

 

先輩にとって面倒はごめんだったから、

都合が良かった。

 

車は孝史の駐車場に停め、

 

先輩もその後に短期の出張があったり、

元カノとよりを戻したりで、

 

孝史の車を借りて

ナンパする事もしなかった。

 

しばらくして、

孝史は出張から戻ってくる。

 

久しぶりの自分の部屋。

 

もちろん出かける前と特に

変わった事は無い。

 

トイレに入った時、

紙が切れている事に気が付いた。

 

そして、

 

近所のショッピングセンターへ

行く事にした。

 

買い物を終え、

荷物を入れようとトランクを開けた時、

 

異常な光景を目にした。

 

トランクを開けた裏側の部分、

 

ちょうど荷物を載せようとした

目線の正面には、

 

孝史孝史孝史孝史孝史孝史孝史

孝史孝史孝史孝史孝史孝史・・・・・

 

何かで引っ掻いたように、

孝史の名前が無数に刻まれていた。

 

そして何故か、

大量の長い髪の毛が・・・

 

美奈に渡したはずの、

インクの切れたボールペンまでも・・・

 

それ以来、

孝史は通勤路を変え、

 

車も買い替えた。

 

買い替えた後に一度だけ、

金曜日の夜に例のバス停を通った。

 

バス停の陰に誰かが立っていた・・・

ような気がしたが、

 

怖くて直視する事も出来なかった。

 

ちなみに、

 

もちろん孝史は住所を変え、

駐車場も別の所に移動した。

 

(終)

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