復讐に至るまでの経緯と真実 2/2

ナイフを持つ

 

私が彼と再会したのは、

大学を卒業し、家族を持った後。

 

元担任の家で行われた、

小学校の同窓会に出席した時だ。

 

なぜなら彼の復讐は、

まだ終わっていなかったからだ。

 

だからそれまでの同窓会にも、

毎回必ず出席していた。

 

そして、

軽く飲んだ酒で酔ってしまい、

 

担任の家の庭で酔いを醒ましている時、

彼が目に入った。

 

長い袋のようなものを背負い、

彼は凄く上機嫌で口笛を吹いていた。

 

曲は『賛美歌第2編191番』だった。

 

私が中学高校と所属していた聖歌隊で、

よく歌っていた曲だった。

 

彼は庭に入って来ると、

私の目の前で長い袋の紐を解いた。

 

そして私を見るなりにっこり笑い、

「よかった」と私に告げた。

 

刀の柄が袋の端からのぞいた。

 

どういうことかと訊いた。

 

「君のママが僕のママに

全部話してたんだ。

 

君が凄く心配してたよって、

桃組の頃から」

 

桃組というのは、

小学校4~6年生のクラスだ。

 

「でも、ごめんね。

ずっと待ってたんだ。

 

あいつらが全員、

立派に大人になるのを。

 

それを見て喜ぶアイツの目の前で

全員殺して、

 

それからアイツの節々を

一本づつ切り落とす。

 

君にだけは見られたくないから、

帰って」

 

彼は俯(うつむ)いて涙を流した。

 

「よかった。

 

君をどうやって外に連れ出そうか

困ってたんだ。

 

やだやだやだやだ見られたくない」

 

膝が震えて、

その場に私は崩れ落ちた。

 

彼は一部だけ正気を持っていたんだと、

この時に気づいた。

 

私に今のような自分の姿を見られるのを

恥じている彼は、

 

自分の罪深さを理解していた。

 

それでも止められないから苦しいんだろう。

 

渋面は間違いなく、

苦悩を抱えた人間のものだった。

 

袋を下ろした彼がその紐を解くと、

沢山の短刀の柄も見えてきた。

 

彼は私以外、

 

あの時のクラスメート全員と担任を

殺すつもりとしか思えない。

 

なんでそんなにと訊いた。

 

担任なら分かるけど。

 

「あいつら、

いきなり僕に味方したろ。

 

許せない。

それまで笑って見てたくせに」

 

彼の想いは理解出来た。

 

でも、彼がやろうとしている事が、

あまりに凄惨でいけないことだ。

 

私は竦んで硬直した身を

奮い起こして立ち上がり、

 

彼を通せんぼした。

 

彼は寂しそうに俯き、

私を押し退けようとした。

 

彼のハンデキャップを考えれば、

信じられないほどの力だった。

 

並の成人男性が本気でどのくらいの

力が出るのか味わった事はないが、

 

多分それ以上にはあったんじゃなかろうか。

 

「私が全部祓ってあげるから、やめて」

 

私は思わずそう言った。

 

「なんで?君を殺す理由ないよ。

愛してるんだ」

 

狂人の口から愛してるなんて言葉を

聞くとは思わなかった。

 

でも、彼にとっては小学生の頃、

勇気が出せなかった唯一の味方でも、

 

たった一人の大事な想い人に

私は成り得たのだろう。

 

「私、結婚してる。

 

でも○○君のなら、

子供を産んであげる。

 

あなたの大切な子供を、

あなたの分まで幸せにしてみせるから」

 

愛してるという言葉が本当なら、

私はこの言葉に賭けた。

 

彼は両手で自分の頭を

ガンガン叩き始めた。

 

それから頬に爪を当てると、

 

ザリリと嫌な音を立てながら

爪が皮膚に潜り込み、

 

血が伝いだした。

 

「変だな。起きない」

 

彼の異常が目立ちだした。

 

まるで子供のような直情な仕草だ。

 

「もう休んでもいいじゃない。

 

私が働いてあげるから主夫になってよ。

ね?」

 

思いつく限りの言葉を並べ立てて、

気を引こうとする。

 

とうとう彼は刀を抜き、

先端を自分の太股にぐさりと突き立てた。

 

「おっかしいなあ」

 

と言い出した。

 

あの小さかった頃の、

 

ハンデキャップを背負って身体を

満足に動かせなかった彼は、

 

もうそこに居なかった。

 

心の中に生まれた憎悪の炎。

 

多分それをずっと燃やし続けて、

他の人より何百倍も努力したのに違いない。

 

人を殺すのに十分な程、

彼は刀を扱えていた。

 

あまりに哀れである。

 

こんなになるまで誰一人として、

彼にイジメたことを謝らなかったのだ。

 

復讐されるその寸前まで。

 

そして今も私の後ろの建物の中で、

善良な市民を装っているのだ。

 

生徒を八つ当たりで負傷させ、

イジメたその教師との歓談に耽(ふけ)りながら。

 

思わず駆け寄って刀を抜かせると、

 

流れた血がズボンに染みてゆくのを

必死に手で押さえた。

 

「離婚して、あなたと再婚する」

 

「俺にも分かる。

お前が可哀相だ」

 

口調がまったく変わり、

一人称も変わった。

 

つぶらな目が細く鋭い輝きを放ち、

低い声で唸るような響きを持った。

 

これが多分あの嘲りをやってのけた、

彼の異常そのものだと瞬間的に理解した。

 

彼の壊れ方を一般的に言えば、

二重人格として知られるものだったようだ。

 

だとしたら、

 

外部の脅威に対抗するために

作り出された人格は、

 

凶悪であるはず。

 

また、そうあるべき。

 

凶悪としか思えない彼の目から、

粒の涙がこぼれた。

 

そのまま泣き崩れると、

彼は号泣した。

 

皆がその声を聞いて驚いて出てくる前に、

 

私は彼の荷物を元通りにまとめて、

彼を連れて実家に向かった。

 

私がこの話をせざるを得ない理由は、

私もツライからだ。

 

私は不倫し、

そして縋(すが)る夫を捨て、

 

他の男と同棲を続けている

アバズレと見られている。

 

※アバズレ( 阿婆擦れ)

品行が悪く、厚かましく卑(いや)しい人。特に女性を表す。

 

まだ離婚は成立していない。

 

事情を知らない者達から見れば、

私が悪いとしか思えないのは当たり前の事だ。

 

しかし本当のアバズレは、

私の母だ。

 

彼女は担任の娘婿とW不倫し、

担任が狂うキッカケを作った。

 

彼女の父(私の祖父)が、

途方もない大金持ちだったから。

 

担任は声高に非難して職を失うか、

黙って教師を続けるかを選ばされたらしい。

 

この事は、

 

母が私の大学時代にまた不倫をして、

その前のと合わせて父から語られた。

 

母の罪が担任を狂わせ、

担任の罪がクラスメートを狂わせた。

 

そして最後にその全ての狂気を、

 

彼一人がまるで帳尻合わせのように

背負わされてしまっていた。

 

(終)

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