呪われた六年一組 3/3

6年1組 教室

 

牧村は翌日から学校へ行かなかった。

 

自分の部屋に閉じこもり、

出ようとしなかった。

 

「次はボクだ!

 

次はボクなんだろう!

内木くん!」

 

布団の中でブルブルと震える牧村。

 

死の恐怖に押し潰されそうだった。

 

「あの時、

『知りません』と言ったのは謝るよ!

 

ごめん!だから助けて!

ボクを殺さないでよ内木くん!!」

 

しかし、蛭田、そしてその子分の

高橋と中村が死んでから、

 

理科準備室から内木の声は

聞こえなくなった。

 

また死者も出ず、

 

内木の自殺から異様な雰囲気だった

六年一組の教室に、

 

静けさが戻りつつあった。

 

牧村も落ち着きを取り戻し、

 

内木の復讐の呪いは終わったのだと思い、

再び学校に登校した。

 

この日は遠足である。

 

集合場所でもある一組の教室に、

牧村は久しぶりに入った。

 

今までの不登校の負い目を

拭い去るかのように、

 

牧村は元気良く教室のドアを開けた。

 

「みんな、おはよう!」

 

クラスメートたちは、

 

久しぶりに登校してきた牧村を

温かく迎えた。

 

牧村が内木の復讐を恐れているのは

誰もが知っている。

 

「よう牧村、久しぶり!」

 

「何よ、牧村くん。

少し太ったんじゃない?」

 

クラスメートの反応にホッとしつつ、

牧村は背負っていたリュックを降ろした。

 

クラスメートたちは遠足の期待に浮かれ、

バスの到着を今か今かと待ちわびていた。

 

だが、

牧村にはまた見えてしまった。

 

クラスメートの一人一人、

全員の首にロープが巻かれている。

 

女子も例外ではない。

 

全員に、である。

 

誰一人として、

そのロープに気づかない。

 

牧村にしか見えないのだ。

 

クラス全員の首に巻かれたロープを

束にして持っている者。

 

内木だった。

 

「う、内木くん・・・」

 

空中に浮かぶようにして、

内木の姿がある。

 

ロープの束を持ち、

笑う内木の顔がある。

 

これから自分をいじめ抜いた者たちを

皆殺しに出来る喜びか、

 

内木の顔は喜色満面である。

 

内木は牧村を見ない。

 

クラスメートたちの首に巻いたロープを、

嬉しそうに見つめているだけだ。

 

牧村は、

自分の首にもロープがあるかを見た。

 

牧村の首にロープは無い。

 

しかし彼は狂ったかのように、

首からロープを取り払うべく暴れだした。

 

「う、う、うわあああ!!」

 

突如に暴れだした牧村に、

クラスメートたちは呆気に取られた。

 

「牧村、どうしたんだよ?」

 

首に内木のロープが巻かれていると

知らない牧村の友は、

 

怪訝そうに牧村に詰め寄った。

 

その言葉に、

牧村が顔を上げた時である。

 

その友の背後には、

 

まだロープの束を持ち笑っている内木が、

牧村を見ていた。

 

牧村と内木の目が合ったのである。

 

「ギャアアア!!」

 

牧村はリュックも置きっぱなしで、

教室を飛び出していった。

 

恐怖のあまり涙は流れ、

小便と大便が垂れ流しであった。

 

牧村は半狂乱状態で家に駆けた。

 

まだ終わっていなかった。

 

内木の復讐は、

終わっていなかったのである。

 

その日、

六年一組を乗せたバスは、

 

山の側道を走行中にガードレールを突き破り、

谷底に落下した。

 

運転手、バスガイド、

そして六年一組の全員が死亡した。

 

ついに牧村以外は、

全員が死んでしまったのである。

 

牧村は怯えた。

 

「次はボクだ・・・次はボクだ・・・

内木くんは最後にボクを殺す気なんだ・・・」

 

内木の復讐に怯える日々を、

牧村は送っていた。

 

いっそ自分も死んだら楽になれると

考えたほどである。

 

しかし、

彼は自分で死ぬことが出来なかった。

 

そして十年・・・

 

牧村はその後、

 

無事に小学校を卒業し、

中学、高校と進んでいった。

 

もはや彼の頭の中にも、

内木の存在は徐々に薄れてきていた。

 

牧村は現在二十二歳となっていた。

 

そんな彼の元に、

一通の不思議な手紙が来た。

 

牧村はその手紙を見て愕然とした。

 

『六年一組・同窓会のお知らせ』

 

「そ、そんなバカな!」

 

牧村がそう思うのは無理もなかった。

 

あの六年一組で生きているのは、

彼だけである。

 

あとは全員が死んでいるのだ。

 

その彼の元に、

どうして同窓会の通知が来るのか。

 

しかし、

彼は同窓会の会場に向かった。

 

牧村にはこの同窓会の知らせを

無視する事が出来なかった。

 

何かに手招きでもされるかのように、

牧村は会場へと歩いた。

 

会場は、

かつて牧村が通った小学校。

 

忌まわしい思い出ばかりのこの小学校へ、

牧村は卒業後、一切近寄らなかった。

 

しかし今、

牧村は再び校門をくぐった。

 

時間は深夜0時。

 

同窓会を行う時間としては適当ではない。

 

それでも牧村は行った。

 

季節は寒い冬。

 

牧村はコートの襟を立て、

白い息を吐きながら、

 

会場の教室へと歩いた。

 

カツーン。カツーン。

 

深夜の校内に、

牧村の靴音が冷たく響いた。

 

やがて牧村は見つけた。

 

『六年一組・同窓会会場』

 

と案内の紙が貼られた扉を。

 

牧村はドアのノブを握った。

 

ドアの向こうはシーンとしている。

 

誰の気配も感じられない。

 

ギイ・・・

 

牧村は会場に入った。

 

この時、

牧村は気づいていないが、

 

ドアに『六年一組・同窓会会場』

と貼ってあった紙。

 

それが、

 

牧村が室内に入ると同時に

剥がれ落ちた。

 

その紙は、

くるりと半回転して床に落ちた。

 

それは、かつての答案用紙。

 

あの日、内木が自らの血で書いた

文字が書かれている紙だった。

 

『みんなころしてやる』

 

会場。

 

そこはかつて内木が首吊り自殺を行った、

理科準備室であった。

 

室内は暗い。

 

同窓会などやってはいない。

 

牧村は暗闇の中、

ただ立っていた。

 

そして徐々に見えてきた。

 

まるで綱引きにでも用いられる太いロープ。

 

その端末は輪状となって結ばれている。

 

それが天井からぶら下がっている。

 

その輪の向こう、

うっすらと人影が見えてきた。

 

牧村を見て、不気味に笑う者。

 

「待っていたよ・・・牧村くん・・・

きみのロープだよ・・・」

 

(終)

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