一人暮らしで頑張っている人には
今まであまり楽しい事が無かった私。
だけど偶然見つけた中華料理店に入ったら、注文を取りに来たおばちゃんがこう言う。
「地域応援の限定のサービスがあるのよ」
聞けば、この店から徒歩で20分以内に住んでいるお客さんには、普段の半額以下で食事ができるとの事。
さらに、一人暮らしで頑張っている人には素敵なサービスがあると言う。
私にぴったりのこんなチャンスを逃す手はない。
全て正直に告げ、身分証明書も確認してもらい、いざ注文。
中華丼と餃子を頼むこと暫し、注文した物の他に、春巻と鳥の唐揚げが運ばれてきた。
驚いている私におばちゃんは、「サービスよ。他にお客さんも居ないしゆっくり食べればいいよ」と、優しく言ってくれた。
料理はどれもおいしく、自分でも驚くほど早く食べ終わってしまった。
サービスに甘えて長居は無用と席を立とうとすると、おばちゃんが慌てたような驚いたような顔で、「あれまぁ、もう食べちゃったのかい。ちょっとこれでも飲んで待っててね。今お土産を作らせるからね」と、お酒の用意をしてくれた。
しかも、お土産が出来るまでおばちゃんが酒の相手をしてくれ、私の愚痴や悩みを優しく聞いてくれた。
いつの間にか涙を滲ませながら、私は時間も忘れ、おばちゃんに話しを聞いてもらっていた。
気がつくと、もう閉店時間は過ぎていたのか厨房には誰も居なく、お土産はとっくに出来ていた様子。
好意に甘え過ぎた非礼を詫び、今度こそ席を立ち、破格の会計を済まし、こんなに楽しかったのは久しぶりだった旨とお礼を述べた。
すると、「実は今日で店仕舞いなの。最後の最後にこんな嬉し事があるとはこちらこそありがとうね」と、おばちゃんは本当に嬉しそうに言ってくれた。
そう、今日は本当に楽しかった。
鍵のかかっていない玄関のドアを開けるまでは・・・。
(終)